第12期 #12

路上生活者

今現在、東名高速道路を車で走るのは至難の業である、と言われている。2年ほど前にこの高速道路を端から端までノンストップで通り抜けた者が居たが、この若い女はその後ありとあらゆるメディアで──と言ってもその数はたかが知れているが──数ヶ月間スターとして扱われた。それほど、現在の東名高速道路は通過が困難になっているのである。
かく言う私も、彼女の成し遂げた事に単純に驚嘆し感動し半ば呆れたものである。彼女が通過にかかった時間は約20日。よくそれだけの時間を安全に過ごすだけの食料や水、それに衣類などが一編に手に入ったものだ。慢性的な物質不足に見舞われている世の中でそんな事の出来る彼女は、余程の金持ちか余程のコネがある人間であると考えられるが、こちらにしてみればフザケルンジャナイヨと言いたくなる。こちらはその日暮らしの生活を続けているのだ。
今日だって死人の持ち物を漁って露店市で売り払ってようやっと手に入れた食料を半分以上かっぱらわれ、玉ねぎ1個しか食べられなかったのだ。彼女はさぞかし車の防衛にも力を入れたことだろう。隣に住む金城がはるばるパーキングエリアにまで行ってラジオを聴いてきたところによれば、彼女はショットガンとその弾をトランクに大量に積み込んでいたそうだ。その弾は、ゴールに到着する事には殆ど無くなっていたらしい。やはり余程の金かコネが無ければ出来ない芸当である。こちらはクロスボウの矢1本を使うのにも逡巡すると言うのに。
こんな事を考えていると腹が立ってきて仕方がが無いので、私はそれに関する思考を取り止め、金城の住む4WDに行って何か食べ物を分けてもらおうとミニクーパーから出た。彼には異常な物探しの才能があるので日々の稼ぎもいいし、おまけに心が広い。黒パンの1つ位は分けてくれるはずである。
振り返ると、私の今の住まいであり終の棲家となるであろうタイヤが4つとも破裂したミニクーパーは、薄汚れた防音壁を背景にしても相当に汚れて見えた。そろそろ掃除をせねばならないが、その水を何処から手に入れようか。
私の頭に新たに考えるべき課題が浮かんだ。


Copyright © 2003 世糸巡一 / 編集: 短編