第12期 #11

舌鼓

少年京平の家は日本料理屋。中学を卒業してから父泰一の仕事を手伝う。泰一と京平は血のつながった親子ではない。京平はそれを知らない。泰一が急死。自分が死んだら親友の幸造の店で修行させてもらうという手筈ができていた。京平は一人前の料理人になるべく「とむら」へ向かった。そこには同じ釜の飯を食ったという幸造はいない。番頭格であった重弥が「とむら」を牛耳っていた。幸造は、妻藤子を殺めた罪で服役しており、二年前に刑期を終え、離れにこもり、店のことには干渉しなくなっていた。贔屓客からのお願いということで住み込みを始めた京平をひと目見たときから重弥は自らの身の危険を感じた。重弥は策を弄して何とかこの京平を店から追い出そうと考えた。毎日、毎日異常とも思えるしごきを繰り返した。京平は身体を壊し入院した。毎日見舞ったのは幸造。京平は幸造に指導を依頼する。承諾した幸造は密かに鍛える。素質のせいか腕は上達し、復帰後も店での地位を上げた。重弥は幸造が京平の後ろ盾になっていることで危機感を強める。重弥は幸造を自動車で襲う。重体の幸造。幸造は京平に隠していた事実を告げた。自分は重弥に狙われていたこと。お前は息子であること。十四年前の妻、藤子は重弥に犯された。密通と誤解した幸造は藤子を責めた。藤子は自害。あとで間違いだと知り、藤子への罪滅ぼしとして自ら罪を被って服役していたことを語る。京平は驚き、復讐を誓う。ちょうど、「とむら」三十周年パーティーが行われる。京平は料理主任を買って出る。重弥も失敗すれば、店から放逐する口実ができると任せる。当日、京平はその日とれたての肉料理を振舞う。その日以来、重弥の姿は消えた。皆が重弥に舌鼓をうったのだ。



Copyright © 2003 江口庸 / 編集: 短編