第119期 #4

スパンコール・ステップ

スゴイでしょ? アタシのこと「救いようがない方向オンチ」っていっつも言ってたけど、どう? 少しは見直した?
アタシだってやれば出来るのよ。

でもホント言うとね、途中で道が分からなくなっちゃって、サービスエリアで大学のサークルか何かの男の子たちに道を聞いたの。多分大学生よ。アタシ、大学に行かなかったけど、なんとなく分かる。男だけで一体何処に行くのかしらね。つまんない。

みんなアタシの胸元ばっかりチラチラ見てさ、「よかったら僕たちと遊びに行かない?」だって。冗談じゃないわ!アタシはあなたとこれからピクニックだっていうのにね! ヤリたいだけっていうのが見え見えなのよ!

あ、ごめんなさい。こんなこと言っちゃって。
怒った? またアタシのこと叩く? 「下品なこと言うな」ってまた叩く?
だって仕方ないじゃない、男の子たちはあなたのことが見えなかったんですもの。アタシが1人だって勘違いしたのよ。あなたは首から上だけになっちゃって、ピクニックケースの中に収まっちゃったし、「ダーリンと一緒なの」って言ってあなたの首を見せたらびっくりしちゃうじゃない!

ああ、気持ちいい!
この丘に来たのも本当に久しぶりね。楡の木もあの時のままね。時間がここだけ止まってしまったみたい。腰まである草の名前をあなたが教えてくれたけど、もう忘れちゃった。ゴメンちゃい。

そうそう、今日アタシこの靴を履いてきたのよ。あなたがたった一度だけ「可愛いよ」って私を褒めてくれたスパンコールのついたこのサンダル。覚えてる? あの時、アタシ本当に嬉しかったのよ。そのことをどうしてもあなたに伝えておきたかったの。だから私にとってこの靴は特別な物なの。シンデレラのガラスの靴って言ったら聞こえがいいけど、そのくらい大事な靴なの。

歯が折れるくらい殴られて、おなかを思いっきり蹴られて、首を締められて。とっても苦しかったけどアタシこの靴のスパンコールのキラキラを思い出したら我慢できたわ。
そういえばあなたはアタシを殴りながら泣いてたわね?
どうして? どうして泣いたりしたの? 訳分かんない。

アタシここに来てこの靴で踊ろうって決めてたの。いいかしら? ちゃんとあなたが見えるようにピクニックケースの紐は解いておくから。
いい? いくわよ。今度はちゃんとアタシを見ていて。



Copyright © 2012 青井 鳥人 / 編集: 短編