第119期 #14

花火

修行僧が眼の前にあらわれ、真っ赤なひょうたんをかざして俺の気をそらし、俺の右乳首をむしり取った。
さらに左の乳首さえむしろうとしたが、俺はそこまで馬鹿ではない。身を翻して避け、逆に修行僧の左乳首をむしってやった。互いの乳首を片手に持ち、俺たちはなおももう一方の乳首を狙っている。かなりの使い手なのだろう、修行祖はそれからいつまでたっても隙を見せなかった。

遠くの空に花火が上がる。夏祭だった。修行僧の気が、ほんの一瞬それた、瞬間に俺は駆け出した。花火が鳴る、咲く。照らされて俺は草むらに飛び込む。修行僧も追ってくる。祭り囃子がかすかにきこえる。俺はそのリズムに乗って、踊るように駆けていく。草むらの暗がり、少し開いた村の簡易休憩所とも言われる場所で村娘が股を開いている。半裸の若い衆が複数人いる。いわゆるスポーツとしての性行為を楽しんでいる様子。俺も混ざりたい気持ちを抑えて駆ける。修行僧も彼らを見つけて同じような感情を抱いたようである。なんとなく仲良くなれそうな、さて。

どうにもおさまらない俺は突然立ち止まってみる。修行僧もすぐうしろで立ち止まる。まだ、警戒していて真っ赤なひょうたんを構えている。俺はなにもしない。花火は夜空、星が降ってくる。虫の音が止む。花火に照らされた俺は興奮している。先ほど見た若者達のことをぼんやり考えている。村娘に俺を投影する。俺はうら若き村娘だ。村娘が楽しんで汗をかくのは健全な行為だ。不思議と修行僧は微塵も動かず、俺は右乳首に手を当ててみる。空洞のようになっている。そこに修行僧の左乳首を収納する。特に違和感はない。振り返る。修行僧も同じように俺の右乳首を彼の左乳首の位置に収納している。そうだ、俺たちは全裸である。

俺は思う。憎しみやかなしみがなくなるってことは、世の中たのしくなくなるんじゃないかって。そう思わないか。修行僧はうなづく。しかしそれはなくしていかないといけないことだよ。わかっている。花火が終わる。最後の一発は特大の三尺玉、いつまでたっても消えなけりゃいいのに。俺たちを照らしてりゃいいのに。草むらに、俺らの影、抱き合って、いろんな部分をこすりつけあって気持ちよくなる。修行僧の唇がぷるぷるであることに、俺はすごく感動している。



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