第118期 #14

彼について

「まず彼の異常な性的嗜好について述べましょう。彼は低年齢の女子、つまり幼女にしか興味を持ちません。成人女性のポルノグラビア、ビデオ、それらの類が彼の興味をひく事はありません。実際、彼は半裸の私を見ても顔色一つ変えない。彼が現在興味を抱いている女子も把握しています。もちろん小さな女の子です。彼は彼女を遠くからずっと眺めていたり、時には近づいて悪戯に及ぶこともあります。私達は出来る限りそれを防ごうとしていますが、四六時中見張るわけにもいきません。彼の毒牙にかかった女の子はたくさんいます。私達は、彼女たちの涙を拭いて慰めることしかできません。
 彼の類まれな残虐性についても触れておかねばなりません。彼は自分より小さい生き物を虐める事にこの上ない喜びを覚えるようです。小さな箱に生き物を閉じ込めて死ぬまでうっとりと眺めたり、大量の生き物を集めて水で溺れさせたり、直接手で握りつぶしたり、行為は日課のように続けられています。私は一度、彼が踏みつけて生き物を殺そうとしたのをたしなめた事があります。すると彼は最初きょとんとして、そして笑ったのです。誤魔化すでも怒り出すでもなく、ごく自然な笑顔で……。私は生まれて初めて笑顔が恐ろしいと思いました。
 最後に彼の特異な独占欲について。彼は、時折自分で制御できないほど感情を爆発させることがあります。それは『自分のもの』が誰かにとられそうになったときです。彼は『彼のもの(ほとんどの場合、彼の勝手な思い込みで決まる)』を誰かが勝手に触ったり、持っていこうとしたとき、突如泣き喚き、暴力を振るうのです。そうなると彼が持っていたわずかな社会性すらも消え、周囲の人間を巻き込みながら爆発するのです。私には彼につけられた傷がいくつもあります。
 その傷を見るたび、私は確信するのです。彼の異常な『独占欲』がやがて、いたいけな『幼女』へと及び、おぞましい『残虐性』を発揮することを。私は彼が恐ろしい。凶悪な犯罪者の資質を持つ彼と日中一緒に過ごすことなど、もはや、できないのです」
「それは幼稚園児としては普通なのでは……」
「普通? 普通って何だ! これだからゆとりはッ!」
「先生」
「戦争を知らない子供たちは帰れ! 休みたいっ! 子供なんて嫌いだっ!」
「先生、落ち着いてっ……!」
「若さって何だ! 平成生まれは死ね! 結婚したいっ!」

 とりあえず、休暇はもらえた。



Copyright © 2012 朝飯抜太郎 / 編集: 短編