第116期 #3
「騙したのね……? 愛してるって言ったのは嘘だったの?」
絶望。それだけだった。ただ、嘘だと、悪夢だと……思いたかった。
「理奈! 待ってくれ! 誤解だ!」
マンションの四階。此処は、理奈の
家だ。
その家の中には、言い争う男女。
「誤解……?」
「ああ! 俺はお前を愛してる! 嘘じゃない、信じてくれ!」
「……本当? じゃあ、あの女は誰?」
愛しい彼――祐希。
本当に愛してる。
こんなに愛しいのに、私の想いが伝わらない?
祐希があの女と一緒に居るのを見た。
『仕事があるんだ。ごめん、また今度な。』
――仕事じゃなかったの?
彼女である私の誘いを断って、他の女と出かけてるなんて……。
――ふざけてるの?
私はこんなにも貴方のことが好きなのに……!
どうしたら伝わるのよ……!
「ただの仕事の同僚だよ! 仕事の話をしてたんだ!」
「お洒落なレストランで? 私服で? 随分楽しそうに笑い合ってたわね」
祐希の顔には、驚きと陰が浮かんでいた。
「……ごめん。悪気はなかったんだ」
「なんでよ……。私じゃ駄目なの……?」
「……別れよう」
祐希は背を向け、出て行った。
嘘だ。悪夢だ。そう思っても、祐希の言葉が声が、背中が、残酷に訴えてくる。
いつからだろう。こんなにも祐希のことが愛しくなったのは。
いつからだろう。こんなにも――――狂ったのは。
玄関を出て下を見る。
――あの女だ。
階段を駆け下りると、少し下に祐希が見えた。
上着のポケットから銀色に鋭く光るナイフを取り出す。
「祐希、好きだったわ。――――愛してる」
祐希が振り向くまもなく、一つ上の階から、飛び降りた理奈が、祐希を、刺した。
背中に一突き。
そして、祐希に後ろから抱きついた。
「……えっ? 理奈……?」
祐希の口からは血が流れ、顔からは血の気が引いている。
「愛してるわ、祐希。誰にも渡さない。一生私のモノよ」
祐希はその場に崩れ落ちた。
‐END‐