第116期 #11
鹿鳴館へ続く道に小さな蟻の巣がありました。その中に一匹、長靴を履いた蟻がいました。蟻は一度でいいから鹿鳴館に行ってみたいと思っていました。
ある日、蟻が巣の近くを散歩していると、黒い馬車から白いドレスを着た婦人が降りてきてお花を摘むぎ始めました。蟻はここぞと馬車に飛び乗り、婦人と一緒に鹿鳴館に行ってしまいました。
鹿鳴館ではすでにパーティーが始まっていました。そこにはいろんな人がいて、まるで日本ではないようでした。
「うわぁ、すごいなぁ〜」
蟻は感動し、パーティーを存分に楽しみました。
パーティーが終わり、西の空は赤く染まっていました。しかし蟻は道が分かりません。花壇のチューリップに聞いてみました。
「あの、チューリップさん。僕のおうちってどっちにあるか分かりますか」
チューリップは言いました。
「あなた様はどのようにしていらっしゃったのですか」
「黒い馬車にのってきました」
「黒い馬車ならその道から来られましたよ。その道をたどって行かれたらどうですか」
「ありがとう。そうしてみます」蟻は歩き始めました。
道沿いに歩いていくと、途中分かれ道に出ました。蟻は勇気を出して道端のタンポポに聞いてみました。
「あの、タンポポさん。お昼、黒い馬車はどちらから来ましたか?」
「やぁ、小さな紳士さん。黒い馬車ならそっちの道から来たよ」
「こっちの道だね。どうもありがとう」蟻はまた歩き始めました。
周りは真っ暗になり、あたりを照らすのは月明かりだけ。蟻ももう疲れていました。
「おうちはどこなのだろう。もう近くに来ているはずなのに」
シクシクシク……
「おや、誰かが泣いている声がするぞ」それは暗闇に浮かぶ盲目のアサガオでした。
「こんばんは、アサガオさん。僕は蟻です。おうちに帰りたいのですが、道が分かりません」そう話すとまた泣き始めてしまいました。
「かわいそうに。僕は目が見えないのでどこか分かりませんが、僕の体をつたって上ってきてみなさい。おうちが見えますよ」
蟻は長く木に絡みついた、アサガオのつるを上っていきました。
すると少し離れた空に小さな光が動くのが見えました。それは蛍の光で、その下では仲間の蟻たちが長靴を履いた蟻を探していました。
「アサガオさん、ありがとう。見えました!」駆け足でつるから降りた蟻はアサガオに礼をして走っていきました。
蟻は仲間たちの所へ帰っていき、おうちに帰ることができました。