第115期 #9
馬が怯えているので「おい、馬よ」と私はやさしく語りかけた。
いったいなにに怯えているんだい?
「しげる様」と馬は私のことを名前で呼ぶ。
どうして怯えないでいられましょう、ほれそこに魔王がいるよおいらの魂を狙っている。
オーケー馬よ、それは木の枝だ。魔王のように見えるだけだ。だいたいね、魔王など夢の国の生き物だよ。マクドナルドのドナルドと同じだよ。現実社会には存在しない。馬よ、落ち着くのだ。私は急いでいる。私はあるご夫人に会いにいく。ご夫人に会ってセックスをするの。さあ急ごう。
いやだ!帰る!ほら今にも魂を吸い取られてしまうよ!
そんなことはない。だいたいよく考えてごらん、魔王がまず狙うのは、私だろう?どう考えても人間の方の魂を狙うだろうよ、つまり、私の魂を吸い取った後に、お前の魂を吸い取る。私が倒れたら、一目散に逃げればいい。ほら馬よ、ご夫人の館が見えてきた。あの館の中で私はご夫人とセックスをする。ああ思い浮かべるだけでぞくぞくしてくる。さあ、急ごう。
ときにしげる様、しげる様がご夫人とセックスしてる間、おいらはどこでなにをしていればいいのですか?
馬よ、もちろん外の馬小屋の中で干し草を食っていてもらう。大丈夫、ご夫人は最高級の干し草を用意しておいてくれる。なにせ、捨てるほどの財産があるからね。お前は遠慮なく干し草を食えばいい。
いやいやしげる様、外やったら魔王に狙い撃ちされるじゃない。わ!わわ!しげる様!魔王が今おいらの肩に手をかけた!
馬よ、馬よ、我は魔王、ちょっと聞いてほしんやけど。
しげる様しげる様!魔王がぼくに語りかけてくる!
馬よ、その魔王の声は、風の吹く音、お前は怖がるあまり風の吹く音を魔王の声だと勘違いしているの。だいたいね、魔王なんて幻想に過ぎないのだよ。マクドナルドのドナルドみたいなものだ。
しげる様、それ、さっき聞いたよ、でもたしかにおいらには魔王の声が聞こえるんだ。
馬よ、馬よ、我は魔王、落ち着いて聞いてほしい、我は今は魂を吸い取らない。なぜなら、魂を吸い取るためのストローを自宅に忘れてきて、魂は吸い取れないんで、ってことを、伝えたいのよ。
しげる様、しげる様!魔王がなんかストローとかわけのわからんことをいうとる!怖いよ怖いよ!
ご夫人の館にたどり着く頃、馬は錯乱してるし、魔王は馬の背に乗って、はいどーはいどー!言ってるし、私はご夫人との行為のことを考えて心ここにあらず。