第115期 #8

青春

 体育館で行われた体育のサッカーが終わり、恐ろしくおんぼろの校舎の横を通って、教室に戻る。入学後、初めての体育の時間に行われたサッカーは、ひと学年全員参加によるもので、授業が終わっても生徒達は、入学時期独特の弾む雰囲気に包まれていた。
 テーブルの上にこぼされた水は、表面張力で丸く膨らみ、小さな水は近くの塊に吸収される。間の空間を詰められない、離れた所にいる水は、塊に入る機会が無いまま、憂鬱な気持ちで取り残されていた。
 教室に戻るまで、話し掛けてみようかと思い横を見ると、そこに歩いていると思っていた、男の姿がいつの間にか消えていて、知らない女が一人歩いていた。
 人の塊の向こうで、違うクラスに入学していた幼馴染だった友人が、「あぁ、これが自由なのか」と、顔の皮一枚の所まで高揚を膨らませた表情で言っている。小、中とサッカー部だった彼は、同じくサッカー部に入るのだろう、新しい友人達のグループに入っていた。校則の厳しかった中学時代を抜けて得た、感慨から出た言葉なのだろうと僕は思った。



Copyright © 2012 しろくま / 編集: 短編