第115期 #16
思い出に浸りながら生きていくことなんてできない。
そんなことはわかっているのに、心にポッカリと空いてしまった穴を埋めるため、私の心は思い出の海に行きたがる。
あなたを探して……。
あなたが居なくなって3年になる。その時間が、もう3年なのか、まだ3年なのか。
あなたとの出会いは、クライアントとしてだった。会ったことも数回しかない。それ以外はメールしかやり取りをしたことがない。
初めはクライアントとしてのつながりがあったこともあり、メールは頻繁にやり取りをしていた。仕事に真っ直ぐなあなたは、わからないところはわかるまで確認してきた。最近は担当があなたから別の方に変わったためか、あなたからのメールは殆どなかった。それでも、私はあなたを忘れたことなどなかった。いつも心のどこかで、あなたを支えにしていたのだと思う。
真っ直ぐに仕事に打ち込むあなたを見習いたくて。
ある日、携帯メールにあなたからメールが届いた。珍しいこともあるものだと思い、メールを開いてみた。あなたではない別の人が書いた文章だった。あなたのお母さんがあなたの携帯を使って打ったのであろう。その事実を伝えなければならない思いと、その事実を受け入れられない思いとの間で、必死に。
その事実は私もはじめはうまく理解できなかった。時間が過ぎ、その意味が理解できたころ、私はただ涙を流していた。あなたが居なくなった。その事実に心にポッカリと穴が開いてしまった。
あれから3年。
お葬式で見た遺影があなたの最後の姿だった。その姿以外、あなたの声もしぐさも思い出すことなどできないのに、私はあなたのことを思い出すことが多くなった。それでも、あなたはもう居ないと思うと、忘れていた心の穴が大きく広がる。まるで、恋人が死んでしまったかのような。
そう、もしかしたら私はあなたのことが好きだったのかのしれない。最近になってそう思う。ずっと理想の働き方をする人だと思っていたけれど、実は違っていたのかもしれない。
今となってはもう自分の気持ちですら確かめる術はないが。
ただ、私はポッカリと空いた心の穴を埋めるために、今日も思い出の海にあなたを探しに行く。