第114期 #2

イン・ザ・パーク

 ここはT市近郊の自然豊かな総合公園。
 今は初冬で、寒風が肌を撫でるが、いつものように近辺の企業に勤務するOLやサラリーマンが昼食後の散策を楽しんでいる。
 四季を通じてこの公園の情景を見ていると、気になる人物も何人かいる。
 例えば、彼女――今、向かい側のベンチに一人で腰掛けて缶コーヒーを飲んでいる二十代後半ぐらいの女性。名前はカナエで、近くの食品会社に勤務するOLだ。
 なにやら深くため息をついている。
「ユキヒロは、もう私のことなんてどうでもいいんだわ。連絡もしてくれない」
 カナエはきつく唇を結び、俯いた。
 ユキヒロとは、隣町の地方銀行の支店に勤務する青年で、カナエの勤務先とも取引きがあり、それが縁で二人は交際しているらしい。
 二人は昼休みになると、よくこの公園の中で会っていたが、最近ユキヒロの姿を目にしていない。
「恋人とうまくいっていないのかしら?」
 私が思わず呟くと、噂好きの仲間たちが話に乗ってきた。
「そういえば、ここ最近一緒にいないわね」
「他に女ができたんじゃないの」
「えーっ、可哀そうー」
「まだ決まったわけじゃないでしょ」
 そのうちに、カナエは腕時計で時間を確認し、俯いたまま勤務先に戻って行った。
 やがて、冬も本格的に入り、この公園も一面の銀世界となり、閑散としだした。

 そして、長い冬が終わり、ようやく待ちに待った春がやって来ると、人々が笑顔と共にこの公園に戻って来た。
 その中にはカナエとユキヒロの姿もあった。
「見て、桜がすごく綺麗よ、ユキヒロ」
「ああ、そうだね。でも、カナエの方がもっと綺麗だよ」
「本当に?」
 以前のように仲睦まじい二人にほっとしながら、私たち――桜は一層花びらの雨を降らせた。



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