第114期 #1
空は気分を重たく、胸を苦しくさせるような灰色に染まっていた。天気予報では雨が降るということだし、私の上でグテーッと伸びている猫も顔を洗っている。
そんな事を考えていると、額に冷たい雫がポツっと落ちてきた。ただ、一滴だからなのか、猫は私の上でぐでーっと寝転がったままだった。
そして、私は、猫の事など考えている気分でもなかった。そもそも、この猫は私とは何のかかわりもないただの野良なのだ。なんで、私の上に寝転がっているのか不思議でしかたがない。
いや、それは、どうでもいい事で、今私にとって重要なのは、友人の事だった。友人の事で頭を一杯にすると、空がそれを見透かしたようにぽつぽつと、冷たい雫を零し続けてくる。雫は、やがて雨となり、私の少し火照った体と頭を冷やしてくれる。心地のいい冷たさだった。
ここは、何時もの堤防ではない。ちょっと離れたところにある、友人にも内緒の雨に打たれるスポットだった。緑は季節柄まばらに地面を染めて、木陰には葉の影もない。
つまりどういう事かといえば、雨は私の体を何に防がれることもなく打ちつけ続けるという事だった。
私は夏が好きで、秋が少し苦手で、冬はまだ自分にも秘密にしておきたいと、独りごちる。
夏というのは清涼感が溢れて、この町の白い砂浜は、とても穢れのないものに見えて本当は胸が痛くなる。
私は汚れている。体ではなく、心が汚れている。何か悪いことをしたわけじゃない、この心の想いも悪いものじゃないと信じたい。
それでも、私は自分のことを汚れていると思っているのだ。だから、汚れた大気で作られたこの汚れた雨で、それよりも濃い私の汚れを流して貰おうと願っている。
友人がきけば“バカみたいなことをやっているんじゃないの”
きっと優しくいってくれる。彼女はそういう人だから・・・そういう人だからこそ、私の心は汚れて、穢れて、心の中で彼女を汚してしまう。
夜、眠れぬ夜に一人、心に彼女を思い浮かべて穢して汚して自己嫌悪したところで、その穢れも汚れも消える事はなくて。
私が雨に望んでいるのは、汚れや穢れを薄めてもらうことじゃなくて、流し方のわからぬ、膿んだ心からあふれ出る涙なのかもしれないと想った時・・・
猫がまるで返事をするように一声鳴いた。