第114期 #3
俺の体の中にはニコチン虫という悪魔が住んでいる。
この悪魔は十五年前に俺が好奇心で住まわせた。このニコチン虫は幻想と洗脳が得意。
ある聖書でニコチン虫は、俺の身体とお金を食いつくすだけの悪魔だと書いてあった。
俺は一瞬の隙をついて、幻想と洗脳を解き、ニコチン虫を追い払おうと決心をした。
儀式は簡単だ。今から三日間、何があっても絶対に餌を与えない。
別に普段とたいして変わらない。ただ十五年間、ニコチン虫と一緒に過ごしてきたから何か寂しい。
口とか心が……。
よく考えてみると餌を与えた所で、何も解決しないし、落ち着いたかの様に思わせるけれども実際何も変わっていない。
まだ一時間しか経っていないが、頭の中はそれしか考えていない。さすがに失恋でもここまでは考えない……。
まる一日が過ぎ、自分を誉めた。何度か諦めそうになったが、なんとか過ごせた。
「餌をくれれば楽になれるぜ」
ニコチン虫が話し掛けてきた。
数時間置きにニコチン虫は話し掛けてきたが、俺は完全無視をした。
だんだんと口調は荒くなり、ニコチン虫はなにがなんでも俺に餌を貰おうと必死になってくるのが分かった。
「どうせ、またくれるのだろ? それなら、今くれよ! 美味いだろうな、まる一日後は……」
俺は一瞬揺らいだ。こいつもこいつで苦しんでいるな。後三日間の命だからな。
「おいっ! 無視するなっ! 早く餌を出せっ!」
ニコチン虫はイライラしている。
「俺は本気だ。もう二度と与えない」
俺とニコチン虫の死闘が始まった。
二日目になると、ニコチン虫は食後と退屈な時以外は話し掛けてこなくなった。
食後の時は、やたらとうるさい。
「よく頑張った! もう十分だ。 今くれたら最高の気分にお互いなれるぜ!」
「せめて、一口だけでもくれよ」
「意地張るなよ、誰にも言わないから、おくれよ……」
俺は深く深呼吸をして、やり過ごした。
「こいつは本気だ」
ニコチン虫はそう言って、急に静かになった。
三日目の朝、ニコチン虫は何か作戦を考えているのか、諦めたのか、二度と話し掛けてこなくなった。