第113期 #9

消えた子供たち

 塔を建てに幾百人が村外からやって来た。大半は金に困った労働者だったが、中に数十人の子供が交じっていた。
 子供たちは三人ずつ一塊になって働き、屈強な労働者の脇をちょろちょろ駆け回った。それには冬が終わり春風が吹き抜けたような温かみがあった。
 みんな子供たちを気に入っていたから、ある日、子供の数が一人足らないことにすぐに気がついた。しかし、始めからこの数だよと子供たちは口を揃えて言うのだった。そう言われ続けていると労働者たちもだんだんとそんな気がし始め、とうとう信じて疑わないようになった。するとまた一人消え、しかし同様のやり取りを経て何も無かったことになった。そうしてまた一人と減っていき、奇妙なことではあるが、子供の数が三人にまで減っても、始めからこうだったのだと労働者たちは思い込むのだった。
 塔が完成し、労働者は晴れ晴れと引き揚げていった。三人の子供は村に残ることに決めた。
 村には三家族が暮らしていた。子供たちは三手に分かれるとその家の子供になりすました。例の如く始めからそうであったかのように。
 年がめぐり、子供たちは青年に姿を変えた。青年の二人は男、残る一人は女だった。二人の男は一人の女をめぐって争うようになった。
 村の中央に聳える塔は度胸試しによく使われていた。各人手製の蝋の翼を負って、どこまで飛べるかを競うのだ。その結果次第で女を得る方を決める。そうなった。女の制止叶わず、男二人は仲良く翼を折って地面に叩きつけられた。二人死に、女は村を去ったが、村の者は始めから三人がいなかったように日々を送った。
 戦争が起こり、村は大きくなった。そして長引くと、始めからこの大きさの町だったのだと思い込むようになった。
 戦争が一段落すると、壊れた塔を修復しに市外から幾千人の労働者がやって来た。その中に数十名の老人が交じっていた。老人たちは三名ずつ一塊になって働いたが、屈強な労働者の脇で失態を繰り返し、現場ではいつも罵声が絶えなかった。全員老人たちを忌み嫌っていたから、老人が一人消えていることにまったく気がつかなかった。しかし、一人また一人と消え出すとさすがに気がついたが、それでも労働者たちは気がつかない振りを続けた。
 塔の修復は頓挫した。戦争がまた始まったからだとも、幾千人の労働者が一夜にして消失にしたのだとも言われるが、本当のところは誰にもわからない。子供たちは消えたままだ。



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