第113期 #7

TATTOOあり/Number Girl

TATTOOあり!
確かにある!臍の付近にある!俺は見たんだ!臍の付近に鬼のTATTOO!
やばい、さらにやばい、バリやばい。

知りたくなかった。
たしかに俺は彼女にTATTOOがあるかもしれないと思ってはいた。彼女の言動に鬼が見え隠れしている、と薄々気づいていた。ただ、信じたくなかった。彼女にTATTOOがないようにと願っていた。無惨にも、彼女に鬼のTATTOOは存在した。

彼女は別段はずかしげもなくそれを披露した。ごく自然に黒っぽいTシャツを脱ぎ、鬼をさらけだした。
彼女の下着姿はセクシーだったし、腰のくびれもなかなかのものだったけれど、俺は彼女を抱く気が失せた。透き通って見えるのだ。鬼を抱くわけにはいかない。

俺と反比例して彼女は抱かれたがっている。今にも下着も脱がんとしている。女だってそういう気持ちになると、と彼女は博多の言葉を使っている。もともとそちらの出身なのか、最近見た悪人という映画に影響を受けているのか、おそらく後者だろう。鬼が博多弁を使うなんて聞いたことがないから。

俺はさりげなくシャワーを浴びにいった。いったん落ち着こうと思った。SAPPUKEIな浴室で、熱いシャワーを浴びながら彼女を思った。俺の知っている彼女には愛嬌がある。愛くるしくてたまらない。今日だって、成り行きでホテルにやってきたわけだけれども、シャワーなど浴びず、野性的に抱きたい気分だった。TATTOOを見るまでは。

鬼と俺の関係を説明する。俺は先祖代々続く鬼狩りの家系にある。幼い頃から鬼を狩る方法を教えられてきた。じじい、おやじ、兄、みんな鬼を狩ってきた。俺も鬼を見つけたら狩らなければならない。掟を破ること、それはすなわち種族の危機につながると教えられてきた。俺はそれを信じて今日まで生きてきた。

シャワーを顔にあてて、考えている。彼女はシャワーを浴びようともせずに抱かれたがっていた。冬とはいえ、汗の匂いなど恥じらいはないのだろうか、いいや俺は彼女の汗の匂いすら愛するつもりだった。臨むところだ、と意気込んでいたはずだ。しかしTATTOO。彼女の中の鬼の血がそうさせるのかもしれない。そう考えると憎たらしくなってくる。幼い頃からの教育の成果とも言えた。かなしいようなうれしいような気分だった。

外から彼女の声が聞こえた。長くない?そんな丁寧に洗わんでもよかよ。

みなさん、俺はどうすれがよかと?



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