第113期 #3
目の前には黒い扉がある。
向こう側には俺とじゃんけんをする相手がいる。
お互い、『じゃんけんぽんっ』という掛け声で扉が上に開かれ、持っている武器で勝敗が決まる。
グーが鉄球、チョキが巨大ハサミ、パーが毒が染み込んだ布きれ。
負ければ鉄球で殴り殺されるか、巨大ハサミで刺し殺されるか、毒が染み込んだ布きれを被され毒殺される。
相手も人間。俺も人間。
これほど何を出すか迷うじゃんけんは他にないだろう・・・。
じゃんけんというゲームは心理戦。
普通に考えれば布きれを顔に被せるのがまだ気が楽だろう・・・。
ではパーか?
いや、相手も同じ事を考えているなら俺はチョキか?
刺し殺したくない・・・血は見たくない・・・でも死にたくない・・・。
相手がパーを出すとは限らない。
俺がパーを出すと読んで相手がチョキなら、俺はグーか?
殴り殺したくない・・・。
でも死にたくない・・・。
こんな恐怖感と緊張感が混ざり合ったじゃんけんは嫌だ。
究極の三択だ。
何を出せばいいのか分からなくなった。
よしっ、パーだっ!
これでいこう。
余計な事は考えるな。
俺は目を閉じて、ゆっくりと震える手で布きれを持った。
『じゃんけんぽんっ』
扉が開く音がした・・・。
俺はまだ目を開けていない。
『ん?妙に静かだ・・・勝ったのか?』
目の前には黒い扉がある。
向こう側には私とじゃんけんをする相手がいる。
人間は独りになると、とても弱い生き物になっていく。
集団になると、人間は人間ではなくなっていく。
結局は自分の事しか考えていないのだ。
こういう状況なら、尚更だ・・・。
自分の中で恐怖というものを勝手に作りだして怯えている。
目の前には存在しないものを見て動こうともせず、もがき苦しんでいる。
実際、恐怖というのは存在しないのに・・・。
人間という生き物は本当に哀れだな・・・。
私が負ける・・・というより死ぬことはない・・・。
私は何も持たずに扉の前に立った。
『じゃんけんぽんっ』
黒い扉が上に開いた。
相手は、やはり布切れを持って、恐怖で目を閉じている・・・。
哀れだな・・・。
私は静かに、そっと巨大ハサミを手に取った。
相手は人間・・・私は人間ではない・・・。
グサッ
完