第112期 #12
祖父母の家の裏手に小さな公園があった。周囲を建物に囲まれた日当たりの悪い空間で、錆び付いた遊具が懸命に薄い影を伸ばしていた。
時間の流れがとてつもなく遅く感じられたのは、ひんやりとした空気のせいか、あるいは、祖母の健康状態が良くも悪くもならないのを疎ましく感じる程度に、私がまだ幼かったからだろうか。
座面のあちこちが破れて黄色いスポンジが顔を出していた丸椅子が二脚と、黒ずんだサッカーボールがひとつあったことをよく覚えているが、行政の怠慢か住民の身勝手か、他にも得体の知れないものがいろいろと持ち込まれていて、近所に住む子どもや、私のように一時的に滞在している子どもが、入れ替わり立ち替わり、そこで過ごしていた。
子どもどうしはすぐ打ち解けるものだと誤解している人がいるかもしれないが、まったくそのようなことはなくて、とりわけ私のような者にとっては、自分から声をかけるというような大胆なことは、とてもできかねた。
見知らぬ女の子が急に話し出したときも、それが自分に向けられた言葉だとわかるまで、二言三言は必要としたはずだった。
しかし、その子の話がなかなか要領を得ないように感じられたのは、私の気質にばかり問題があったわけではなくて、彼女が訛っていたのも影響していたのだと思う。
私が地元の者ではないと知ると、彼女は私の住む町のことを尋ねた。工場や高速道路といった、少年の目線から比較的見栄えのしたものについて私が話すのを、丸椅子から垂らしたつるりとした脚を前後に揺らして聞いていたが、やがてそれにも飽きたのか、テレビ番組の話をして、それから、当時流行っていた歌を小声で歌った。
椅子から降りて、ゆるゆると歩き、唯一の出入り口である細い道路の方を向き、何を思っていたのだろう、しばらく私に背中を向けていたが、曲が終わりかけるころに振り向いた。
照れ隠しだろうか、アイドルのようにお辞儀をして相好を崩したのを見たそのとき初めて、彼女が私よりずっと日に焼けていて、ずっと歯が白いことに気付いた。
それが私にはまぶしかったのだと、歯科衛生士のお姉さんの胸が頭に当たりそうで当たらない状況下で、懐かしく思い出した。フロスはただ糸を通せばいいというものではなくて、しっかりと歯の側面を磨かなければいけないのだという。なるほど歯周ポケット同様に奥が深い。
そして、また次の夏に、と私たちは約束した。