第112期 #11
雨戸を閉めようと窓を開けると目下の屋根で身を丸くして寝ている白い猫がいた。宙(そら)には人の息に染まったようなまん円い月が昇っている。寒そうだ。
猫は毎晩窓を開けるとそこにいて、誰の飼い猫でもなさそうで、雪の少ない田舎の夜とはいえ気の毒に思い、服を与えてみた。赤い羽織を模したそれは白い毛にも映え、猫は以後その服を着て現れるようになった。
寒に入り、一年に二、三度降る雪が来た夜、積もっても朝には消える雪の上で猫は同じように寝ていた。寒かろうと部屋の中に招いてみたが、猫は起き上がるとどこかへと歩き出し、白い雪の中へ消えてしまった。
猫はもう現れなくなったが、時々満月の夜の夢の中でその白い影を見掛けている。