第111期 #3

パンツ

「あの、パンツなんですけど」
 という声がしたので、振り返ってみればパンツを手にした女の子がいた。僕は駐車場で身をかがめて探しものをしているところだった……まさにパンツを、いや、せめてトランクスって言ってほしかった。
「ああーすいません、探してたんですよ」僕は照れ隠しに頭をボリボリかきむしった。また癖が出てるな。テンパるといつもこうだ。にしても、見知らぬ男のパンツをよく拾ってくれたもんだ。見るからに人の良さそうな子。パンツさえも輝いてみえる。
「落っことしちゃったんですか?」彼女はアパートを見上げながらにこりと笑った。
「干しているときによく落とすんですよ……日に日にパンツがなくなる」
「まさか今、穿いてないとか?」天使のような笑みで僕の股間をのぞく彼女。
「あ、バレました?」僕は教科書通りの返事をする。
「だと思いました」
「どういうことですか、それ」
 あまりに低級な返ししかできない自分に苛立ちながらも、ちょっとした出会いに心が浮き立った。なんて名前の子だろう。年は同じくらいかな……どこの学校だろうか?
「それじゃあ、またパンツ落ちてたら拾っておきます。……パンツだけですけど」
「いや、それ以外もお願いしますよ」
 彼女は風のようにふわりと去っていった。……こんなにパンツを連呼した会話を今までに何回しただろう。下着なんて見えないからとお粗末に扱うものじゃない、そう、見えないものこそ大切なんだ。僕はボクサーパンツに穿き替えよう、とひそかに決心した。



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