第111期 #2

もう・・・

 もう生きていても何もならない。
 下を見れば足がすくむような高さに俺がいるのが分かる。ここはおそらく地上から約30メートルはあるだろう。ここから飛び降りればすべてが終わる。
 俺は静かに目を閉じた

   半年前
 俺は不動産会社に勤めていた。だがこの不況の流れに逆らえず、倒産をしてしまった。
 この時、俺はもう40を過ぎていた。
 再就職を望もうとしてもどこも雇ってくれる所なんて無い。結婚はしていない。親族は父だけだった。だが、父はもう70を超えていた。
 俺はもう誰にも頼ることが出来なかった。

  倒産して4ヶ月
 俺に電話が来た。内容はこうだった。
 父が亡くなった。
 道路で倒れていたのを近所の人が見つけたそうだ。その電話を聞いて、俺はそのとき持っていた一万円を使って、父の元に駆けつけた。
 父を見た。泣いたような跡がまだ残っていた。父は死ぬとき泣いたのだろうと思った。理由は分からない。永遠に分からないのだ。

 父の葬儀が終わった。俺はもうどうすればいいか分からなかった。40を超え、結婚はしておらず、親族も、もういなくなってしまった。貯金はもう0。
 もう・・・何をしたいのか分からなくなった。



 気づけば2ヶ月が過ぎていた。ホームレスの生活にも慣れてしまっていた。俺はふいにこう思った。

・・・生きていてもしょうがないんじゃないか・・・

 そんな衝動に駆られて俺は我を忘れて走った。
 走って
 走って
 とにかく走って・・・
 そして俺はビルの屋上にいた。



 目を開ける。
 もう思い残すことはない。
 この価値のないこの世界からおさらばしよう。
 俺は・・もう・・・
 
  ・・・もうこの世にいても意味がないのだから・・・



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