第111期 #1

青と白の世界

 私は空を見上げていた。見上げた先には、キャンパスに青い絵の具をぶちまけて、白い絵の具を自由奔放に延ばしたような景色が広がっている。
 鼻腔を潮の匂いが擽り、耳には波の音が心地よく響き渡っている。
 太陽を野光を浴びながら堤防の上に転がっていた、長く空を見上げていたので、背中が少し痛くなってしまった。
 体を起こすと広がるのは、引いては返す波。そしてその波の下に広がる白。
 まるで白いキャンパスの上で青と白の液体が、キャンパスを汚さずに動き回っているようで、そんな想像をすると、急に胸が躍った。私は靴下やら靴を堤防の上に脱ぎ捨てて、白いキャンパスの様な砂浜の上に飛び降りた。
 サクっと音がして、暖かい砂の何ともいえぬ心地よい感触が足の裏に広がり、それに私は目を細めてもう一度空を見上げる。
 見上げた先には、青と白の世界で、真っ直ぐ見つめる先にも青と白の世界。
 ただ一人、私ははしゃいで砂浜を走った。砂を蹴って進むたびに、ギュッと音がして、それに波の音が混ざる。それを聞いてると走っているのに疲れを感じないし、胸はさらに躍る。
 夏が始まったことがうれしくて、年甲斐も無くはしゃいでしまっている自分に対して、苦笑いをしてしまう。
 その苦笑いはどこかツボにはまってしまって、お腹が痛くなるまで笑い、波打ち際に転がった。
 寄せては返す波は冷たいような暖かい様な不思議な感覚で、それが面白くてまた笑った。
 濡れるのも気にせずそのまま、波打ち際に転がって目を閉じていると、足音が聞こえてきて、その音は少しずつ大きくなる。
「あーぁ、下着まで透けちゃってるよ?ブラ丸見えじゃんかー」
そして足音はぴたっと止まって、その主があきれたような声でつぶやいたので、私は目をぱっと開けて、案の定、こっちを覗き込んでいる友人の身体を引っ張って、同じように波打ち際に転がした。
 友人は怒る訳でも無く、“はぁ、まったくこっちもずぶぬれの透け透けだよ”とつぶやいた。
 季節は夏。服なんてすぐ乾くよと、私がいうと、友人は諦めたようにため息を付く。
「あなたは夏が好きよねぇ」
「そうとも、夏は私のエネルギーだよ」
そんな意味不明な会話も楽しい。
 夏は始まったばかり、今年の夏は何があるだろう。この青と白の世界は私にどんな景色を見せてくれるだろう?
 友人の手を握り、そんな風に思いを馳せながら、私は目を閉じた。



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