第110期 #14
幼なじみのヤロウ・コンニャロウがドライヴに誘ってきた。仲たがいの原因は俺がヤロウの女に手を出したことだった。フクロにでもされ、骨の髄まで引き抜かれるような怨讐を用意しているのだろうと身構えていたが、ヤロウは二人分のバニラシェイクまで調達していた。吸い嗜みながら木偶街道に入る。似合わぬ気遣いだった。
運転は俺に任され、ヤロウはナビを膝の上に乗せて助手席でふんぞり返っていた。全開の窓から腕を放り出し、風に手のひらを泳がせている。
四号線から抜けようと指示があり俺は肉車を走らせた。家獣の胴体を切り開いておろした肉片を幾層にも積み重ね、中身を刳り貫き、ハンドルと車輪を取り付けただけのマイカーは、ヤロウが昨夏モテようとして購入した。クラブ帰りにホテルで俺と寝たキキカカ・アンズーも、コイツに乗って引っ掛けた女だ。
俺ァ苦手だから頼む運転してくれよ、とヤロウは言い張るが、技術の問題より肉車との相性が悪いみたいだ。確かにコイツは言うことを聞かない。どこの家獣だよと訊ねると、台湾製だとヤロウが言う。しっかり動けタイペイ、とダッシュボードを叩くと肉壁が蠕動した。
アンズーも乗り心地悪ィと言ってたサ。
ヤロウはストローを噛みながら、どこか自嘲の雰囲気で呟いた。
肉車は加速と鈍行を繰り返し一本道を走った。分譲の住宅地、見晴らしのいい田園を更に抜ける。煉瓦道に入り現れたのは、道を挟んで一定間隔に立ち並ぶ人型の木偶たち。腰を直角に曲げ、通る車に頭を垂れるオブジェ然とした街路樹だ。どのツルッパゲにも陽が照り返し、車道が窮屈に感じる。
窓から身を乗り出し、控えおろゥ控えおろゥと声高に叫んで、ヤロウは金属バットで木偶の脳天を叩き割り始めた。粉砕した破片が脇腹に突き刺さったのか、肉車が痛がって蛇行する。木っ端は煉瓦道を舞ってきらきらと渦を巻いた。
その向こう、進行方向に聳える摩天楼群の陰から、力瘤を見せびらかして大入道が顔を出す。筋骨隆々の背中に貼られたゼッケンには、五と標示されていた。
悪ィ、道一本間違えたワ。バットを後部座席に放りヤロウは謝った。
どうする、と訊き返すと、このまま北へと言う。俺は黙って従った。
あんなビッチでもな、愛してたんだ俺ァ、アンズーのことをよ、なァ……。
途絶えぬヤロウの嘆きを聞きつつ、シェイクを呑む。喉の奥が鳴いた。
空は不気味に青褪め、俺たちは木偶街道を更に北へ行く。