第110期 #13

一文字小説大賞選考結果発表

――選考委員長として全体の感想はいかがですか。
「残念なことに盗作が非常に多かった。字数制限一文字以内という規定は厳しいが、盗作という姑息な手を使わず、自分の頭を振り絞って勝負して欲しい」
――たとえばどんな盗作がありましたか。
「一番多かったのは『?』というもの。これは明らかにヴィクトル・ユーゴーの手紙から盗用したものだ」
――偶然の一致とは考えられませんか。
「少し似ているだけならともかく、本文の100%が一致しては言い訳もできない。また同様に『!』も失格とした」
――他にはどんなものがありますか。
「『●』というのもあった。これは草野心平の「冬眠」と完全に一致する。選考委員を試すような真似はやめて欲しい」
――どうも盗作の方が多そうですね。
「残念ながらそうだ。『イ』というものもあったが、これも大正15年の日本初のテレビ放送作品と一致する」
――文学以外からでもだめですか。
「もちろんだ。漢字一文字の投稿作も多かったが、すべて過去の一文字書道と一致した。独創性を大事にして欲しい」
――盗作は完全一致のものだけですか。
「難しいのもある。FAX投稿で白紙として送られてきたのもあった。0文字であっても一文字以内なのは確かなので規約違反ではない」
――裏表を間違えて送信したのかもしれませんけど。ではそれは合格作品ですか。
「だが本文が空白という形式は、エドワード・ウェレンの「もしイブが妊娠しなかったなら」と同一だ。0文字同士は完全一致と言わないが、模倣なのは間違いないので失格だ」
――盗作以外の失格作品はありますか。
「《闇夜のカラス》という題名で『■』というのがあった」
――図画の宿題をさぼった小学生の言い訳のようですね。
「これは題名があるのが失格理由だ。本文以上の長さの題名は明らかに不正。たとえば千文字小説なのに題名が千文字以上あったら誰でもアンフェアと思うだろう」
――題名が一文字でも許さないんですね。
「住所氏名も評価を狂わせるという意見があり、個人情報は事前にすべて廃棄した」
――受賞賞金を送る前に破棄したのがミソですね。それでは最後に、今回の受賞作を教えて下さい。
「厳正な選考の結果、今回は受賞作なしとなった。最終選考まで残ったのは『w』だったが、これも二重字のダブルユーが由来なので、二文字扱いとして失格になった」
――本賞があざ笑われているようにも見えますが。ともかく今日はありがとうございました。



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