第11期 #3

 こめかみに鈍痛がほとばしると僕は、くらくらとつっぷした。ベットから外れた音を拾い、それを部屋の中央に寄せ集めると滲んだ闇が進行した。深夜2時、僕は疲れていた。腕を振り上げるのと同時にビームを発射する。連想しながら赤外線にて送る命令をテレビに下す。脳内で腫瘍が破裂したような音をたて、横一文字に広がった光の筋を集め広く深く情報を照らす。このテレビの奴が。この箱が。

 誰が砂嵐と呼んだのか。白と黒と灰が入り混じった点を映し出す。点をひとつひとつ拾い集めるように目を追うと眩暈を引き起こし、またベットから外れた音を拾い集めた。今度は、闇が抜けた。僕は疲れていた。画面に額を押し当てると身体から吐き出すように言葉を漏らした。誰かお願いだから、お願いだからそっちに連れて行ってくれ。この世の中の何を憎み、そして何に怯え、何を愛し、何を得るのか。全てが未成熟な青年は情緒不安定のまま奇妙な形の箱を抱く。チラチラと白と黒と灰が混じる点を映し出す箱を。

 向こうの世界では、向こうの世界の僕がいる。脳はなく、考えることもせず、結論だけが書き込まれているロボ。そいつが言った。

「来」

 血と肉で覆われた世界で唯一無機質な物体で作られた向こう側の僕。彼の結論は「来」だった。僕が出した結論に従うままに顔面を箱に押し当てる。唾液が垂れると白と黒と灰はパラレルに広がる。やがてその道はブラウン管を突き抜けて、ロボの身体に突き刺さる。崩壊の合図を受けた向こうの世界は、途端に歪み、収縮し、爆発した。高濃度に凝縮された風が部屋に突き抜ける。

 僕は、何かに迫られるように部屋を飛び出た。

 真っ直ぐすぎる廊下の真ん中に本が落ちている。
「365日が記念日」という文庫本。
2月1日、僕の誕生日はテレビ誕生日の日。
挿絵に描かれたロボは、向こう側の僕とそっくりだった。

 感動を覚えたところで、僕はこの遊びをやめにした。



Copyright © 2003 荒井マチ / 編集: 短編