第109期 #6

正木

高校の友人達と久々に再会し、思い出話をつまみにビールを飲んでいる僕を尻目に


正木は隅っこで寝ている。



正木とは高校からの友人で(ここにいる奴は全員高校の同級生)、物静かなタイプである。
どこか不思議な雰囲気をもった男で、口数が少ないが喋れば、みんな正木の言葉に耳を傾けた。

文にすると、言うわゆる「臭い」という感触はあるのだが、
間がいいのだろう。喋るタイミング、声質(トーン)、雰囲気でその臭みを一蹴するセンスがある。


しかし、それを誇張するわけでもない所が正木の人気でもあった。


夜も更け、深夜一時。その正木の話になった。

「正木に将来で悩んでたらこう言うわれたよ。
”君は頭が良くはないのかもしれないが、みんなを和ませることができる。和ませる仕事はいいよ。きっと君はもっと和やかになれる。”ってね。」

「オレは結婚式のスピーチで”君は静かで、面白みにかけるかもしれない。しかし裏切らない男だ。隣の女性は退屈するかもしれないが、不安になることはない。それは幸せの絶対条件だ”ってね」


「なんだよ。相変わらず、くせーなー笑」

「お前結婚するんだろ?正木にスピーチしてもらえ」

僕は頷き正木にお願いすることにした。



正木は隅っこで寝ている。

僕は正木の近くに行き、「おい。正木」と声をかける。

「僕にもみんなの様にアドバイスくれよ。」

正木は無言で、起きる気配がない。

「今度結婚するんだ。スピーチしてくれよ」

正木は無言で、体一つ動かさない。






正木は隅っこで寝ている。
白い布を顔にかぶせて。


僕は正木の言葉を待っている。あの臭いセリフを待っている。



Copyright © 2011 伊藤 知得 / 編集: 短編