第108期 #5
温かな提灯の灯りが、夜の闇を照らす中、少年と少女は、人混みの中を駆け巡った。屋台のおばちゃんと話し、町会のおじちゃんと遊び、同級生と戯れて、夏祭りを満喫した。
盆踊りが終わった。突然、辺りが静かになっていく。
「子供はもう帰りなさい。」
警備員が、冷淡に促した。
「はい…」
二人は公園を後にした。高揚は消えないものの、何だか名残惜しいような、不思議な感じがした。
「ねえ。」
少年が少女を見た。少女は、
「なによ。」
と返した。祭りのときとは違う、ぶっきらぼうな口調だった。
「なんでもねえよ。じゃあな。」
少年は慌てたように、同じく乱暴に返すと、走って夜の闇に消えた。少年と少女は、少年と少女に戻っていた。
一年が経った。また夏祭りになった。公園の入り口で、二人は顔を合わせた。躊躇いながら、そっと近付いた。
「行こうよ。」
少年が言った。
「行こうか。」
少女が返した。
少年と少女は、小さく微笑むと、祭りの光に消えた。
少年と少女は、また1つになった。