第108期 #3
駅前の大通り。両肩が重い。深夜二時までパソコンをしているみたいだ。それか、ボーリングの玉の入ったリュックを背負って、何時間も坂道を、上り続けているようだ。
見ているようで見ていなかった足元が、アスファルトの上から、土の上に足跡を付けている。頬に蝿がとまり、頭をもたげると密林――。いや、白い樹木が、等間隔に並ぶここは、ゴムのプランテーション。どこまでも続く、パラゴムの木。
木々は、どれも一本の傷を付けられていて、体を纏うような一筋の下、ヤシの実の器が、こぼれ来るそれを受け止めている。なぜこんな所を、歩いているのだろう。どちらを向いても、白い木々が等間隔に並ぶだけで、前という表現は、自分の体の前面が向く方向でしかない。ただ、冷気を含む空気と木漏れ日は、気持ちがいい。
歩き続けていると、一帯の黒い塊が見えてきて、酷くうっそうとしている。ゴムの木に替わって現れたのは、まだ背の低い、パームオイルの木。中に入れば日差しが減り、重く垂れ下がる枝葉の下を、希望無く、くぐるようにして進んでいく。そして、松ぼっくりのような樹皮の上部に実る、硬く重々しい油ヤシの実。
地面の上にも、大きな枝葉が落ちていて、泥濘に、何度も足を取られる積み重なりが、なぜこんな所を歩いているのかと、考えさせる。いつまでも、抜ける事の叶わない道程に、不安になる。生まれた焦りが、冷たい汗を出させ、時間を長く感じさせる。
木々それぞれに、塊になって実る油ヤシの実は、どこを見るでもなく、そこに存在するだけなのだけど、それはまさに、新しい命――。生まれ続ける黒い実が、いつか地面を覆い尽くしてしまいそうだ。
垂れ下がった枝葉の間から、カカオの木の姿を見ると、這い出すようにそこへ出た。弦の張る角を持つ、灰色の一頭の水牛が、地面の草を食べていた。奥には土色の川が流れていて、川に沿って歩き始めた牛に付いていく。ここまでの道をふり返って、「人工的な密林」ついそんな言葉を吐いてみた。
牛の後ろを付いていくと、林の果てに現れたのは墓地で、所狭しと並んでいる。隣には彼方から伸びてくる、一本の線路があって、この先もただただ広がる平野。
この世界にいるはずの、まだ姿を見せない人々は、何を持ってここに来るのか。ここからどこへ向かって進んでいくのか。
どこからか、聴こえてきた喧騒に振り返ると夢十夜。ここでは所狭しと並ぶ、人の背中が揺れていた。