第108期 #2

手紙

勉三のカゴに手紙が入っていた。

「勉三」とは僕が密かに名付けた自転車で名前である。

白い封筒に「前川様」と達筆で書かれた文字は、昨日の雨で少し滲んでいた。

「なんだこれ?」とヒトリゴト。

すぐに開けようと思ったが、どうせ管理人のバァさんが、自転車の置き方だとか、タバコの吸殻がどうだとかの類の暇つぶし系、説教系の手紙だろ?

そんな、好きな子からの手紙なんていう、ロマンチックは、中学の机の奥に固くなった給食パン諸共おいてきたぜ。

そんなことより、時給1000円以上可のアットホームな職場が自慢のバイトの面接の方が大事だぜ、アバヨ。

と、勉三にまたがり、走り出す。

面接場所まで、信号機に止まらなければ10分

面接時間までも10分。

今更ながら、ドラマの再放送をしっかり見てしまった自分に後悔。

からの、怒りの方向転換。

もし間に合わなければ、二本連続でドラマの再放送を放映したテレビ局に抗議の電話を入れてやる。

と、わけわかめな決心。

この強い決心が社会の歯車になんの役にもたたないことは、モンスターニート(自宅警備隊長)にもわかっている。


そしてなんなく、二つ目の信号(一番赤が長い)にひっかかり、抗議決定、アットホームさよなら。

「だぁーーもう。まぁいっか」と独り言。

タバコに火を付け、勉三のカゴから白い封筒をとりだす。

ビリ

ビリビリ





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