第108期 #1
なにげなく、新幹線の線路を近くで見たら、50センチくらいの間隔で、左右をネジで止めてあった。50センチくらいをキープしたまま、ずっと向こうまで、見えなくなるまで、しっかり止めてある。
一番最初に、このネジを止めた人は、一体どうやったのか? 少しだけ気になった。
「君は東京と長野、どっちからはじめたいのかね?」
ネジを止め始めるとき、ネジを止める係の人が、そう質問を受ける。どっちからやっても一緒だから、誰だって、好きな方から始めたいんだ。「長野からでおねがいします」と、答える。すると、「今回は、50センチ間隔で行こうと思ってる」と、説明を受ける。
さあ、そこからがわからないんだけど、ものすごいでっかいリュックに、ネジをパンパンに詰めて、長野からはじめる。初日は、夢中でネジを止める。でも日が暮れたときに、周りに泊まるところが近くにない場所だったら困る。どこまでネジ止めたかわかんなくなったら大変だし。なによりも、途中でリュックの中のネジがなくなっちゃたら、どうやって補充するのか? 一回で全部のネジを持てないと思うし……。
ということは、かなりの大人数でで分担したはずだ。
一人一人、持てるだけのネジを持っていく。
「はい、きみは1000個ね」
「はい、じゃあきみは2000個ね」。
当然、混乱しないように、線路のどこからどこまでを担当なのかはっきり決めておくのが大事。でも、そこは人間のすることだから、ズルをしたい気持ちが芽生えてくるはずだよ。
「50センチ間隔って言われているけど、おれのところだけ70センチ間隔でやっちゃっても大丈夫なんじゃないだろうか?」
という気持ちがそれだ。だけど結局、70センチ間隔で自分の分担を終えた人は、当然、最後、リュックのなかにネジが300個くらいあまる。この300個を彼はその後どうしたのか? 帰り道に川に全部捨ててったのか? 僕はそこが知りたいんだ!
逆もある。50センチで間隔でやろうと思ってたのに、なんか微妙に48センチくらいでやっちゃってたらしくて、残り100メートルのところまで来て、リュックの中身を確認したらもうネジが3つしか残ってない、という人もいたはずだ。もしも、新幹線の線路をながめていて、急にネジの間隔がめちゃくちゃ広くなってるエリアがあったら、そこは彼の担当だったに違いない。