第107期 #6

月冴

青い傘をさし、彼は駅から歩き出した。
降り積もる雪で、辺りには静かなひんやりとした空気が満ちている。
傘に重みを感じ始めた頃、誰もいない小道で子どもがこちらへ背を向けてしゃがみ込んでいた。
彼は近寄り、小さな背中に声をかけた。

何をしているんだい。

振り向いた子どもの瞳は紅い色をしていた。

雪を集めているんだよ。
雪の水で作る団子は格別だからね。

子どもは手袋もせず、青いバケツに雪をつめている。
彼は黒革の手袋を外して子どもに渡した。
すると子どもは紅い瞳を輝かせた。

どうもありがとう。
団子ができたらきっと届けるよ。

青いバケツを抱えて子どもはぴょん、と跳ねた。
瞬きをすると、子どもの姿が消えていた。


月にいるうさぎは団子を作っているよ

でもね、三日月の時はおやすみ

月が笑っているうちに
うさぎはいろいろと団子の材料を集めるんだって

雪の降る三日月の晩はとくにね


冴え渡る夜空に三日月が笑っている。



Copyright © 2011 白雪 / 編集: 短編