第107期 #5
便利になった。
祖母が言う。
俺からしてみると、携帯電話だって、まったく使いこなせていなく、
手元に近づけたり遠ざけたりしながら、番号を探す。
メールの送り方、そんなに難しいものではないはずだけど、
教えることはとっくの昔に放棄した。
便利だねぇ。
電話ができること。それさえできれば満足そうで、
その満足さに、ま・いっか。と思うことができた。
携帯電話がない世界。あるいはネットのない世界。
その時代に生きていた祖母を、超リスペクトしてる。いや、マジで。
自分のことだって、身体痛いとか言っていたりするクセに。
携帯だって満足に使いこなせていないのに、
心配しすぎで、ありがたいんだけど、
もっと自分の心配しろよとイラっときたり。そんなこともあったけど。
でも、小さい頃の思い出にはいつも祖母がいて。
昔懐かしの遊びで、遊んでくれたりしたんだよね。
携帯メールに、携帯サイト。
当たり前のように利用して、メールの返事はすぐに来て、
24時間、365日。つながろうと思えばつながれる。
話したい、話ができる。
アドレス探して、発信。ただそれだけ。
つながらなくても、履歴があればかかってくる。
場所の遠いを気にすることなく、皆でアホ話。
だからあまり考えたことがなかった。
繋がらなくなった電話。
戻ってくる宛先不明のメール。
多分登録アドレスで、それらは何件もあるはずだけど。
それでもそれは今の生活に困らない範疇で。
便利さが不便になった? そんなこと考える俺。
そしてそうじゃないことも知っている。
昔紙コップで作った糸電話。
それでなら通じる?
あれなら仕組みが簡単で、多分誰でもできるよね。
何でも聞くよ? 望みは何?
無欲だったから、ないんだよね。
くよくよするなと言うだけだよね。
どうしようもなくなったら、覚えてる。
無機質な音より、自然な音。
貝殻を耳にあて聞いてみるね。
海沿いに面した街の、あの思い出を。
音に乗せて伝えるから。
そして皆で話をするよ。
あの頃の話。かっこ悪い話は割愛で。