第107期 #20

波間に金の夕日が沈む

大きい重たいないんてまったく問題にならない。技師長が力んで説明して、そうなのか、と、一同納得し

てしまった。

 事の始まりは、石油がなくなったことだった。大昔は石油のために戦争をした。だが、ないものは争い

ようがない。幸いにニッポンはたくさんの火山があった。イキのいいのはボンボン煙を上げて燃えている

。しかし、そんなものがない国もある。そこで、わずかに残った石油資源を使って貴重なプラスチックを

バッテリーにしたつまり電池をタンカーの腹いっぱいに詰め込んで運ぼうというのだ。

 船はゆっくり海上の発電素子を廻って電力を取り入れ、バッテリーコンテナを一杯にする。

「やっぱり、あんなでかい船は役に立ちませんね」 浜辺に寝そべって矢島が、批判した。
「そういうなよ。タンカーを何かに使うのがね。やらなきゃいけないことだったのさ」木野俣が言った。


「ある程度大きくないと、このあたりには台風が来る。木っ端微塵に吹き飛ばされてしまうぞ」

「まあ、このあたりじゃ、電気だってそんなに使うわけもなし。小さい船をつかって、バッテリーを積み替えたらどうです」矢島はなにか、言いたいことが腹の中に詰まっているらしい。


「そんな、……、いったい、誰が小さい船を作るんだ?」
 木野俣は矢島の気持を察していながら、いい加減にしてくれ。そんな思いだった。

巨大な船腹はがんがんクーラーをかけて冷やして朝夕の湿気の多いときぼや〜と、霧の衣をまとうほどだ。

「ああ、おれも地熱発電のほうに廻りたかったなあ」矢島はぼやいた。「いま富士山を斜め掘りしてるらしい」

 矢島のいかにも、うらやましそうな口ぶりは。木野俣の無念ごころにもひびく。タンカーの底がさびで穴があくまで、波の荒い日本海暮らしだ。

 発電素子は小さいから、ぐらぐらゆれて、波の力を吸収する。そんなものがいっぱいつながっている。故障したら取替えに行く。馬鹿らしい仕事だが間違えたら死ぬくらい危ない。ロボットのやるような仕事だ。


地下のマグマを呼び出す。掘削のほうがよほどやりがいがある仕事だろう。間違えたら富士山を爆発させるかも知れない。そんな緊張感がある。

まあ、休火山を掘ったところで、地殻に穴があく失敗など起こるはずはないが、そういう可能性もあるというだけで、仕事にハクがつき、緊張感が生まれ、やりがいを感じことができるのだ。

 そろそろ、夕日が波間を照らす。ああ、つまらない一日が終わっていく。



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