第107期 #15

レディア

 レディアは起こされたが起きたくなかった。じいが執拗に起こして来るのだが。レディアは漁師の納屋で寝て居る。漁網を敷布団にして掛け布団にもする。太い釣竿を枕にして眠る。レディアは眠って居る時は二本の足が人魚の様に魚の尾っぽになって居る。立ちあがると二本の足に戻るのだが、寝て居る時と怒った時には魚の尾っぽになる。じいの今日の起こし方は何時もよりより一層執拗な気がする。確かに何時もしつこく起こされるのだが、レディアも頑張って寝た振りをし続けると、じき諦めてくれるのが習慣みたいなものだったのに。
 「レディア様、今日は魔獣族の特別研修の日ですぞ」
 あ、そうだった。魔獣小学校が夏休みに入って、油断して居たけど、私らエリート血統の魔獣族らには夏休み関係無しで特別研修の予定がびっしりだったわとレディアは思いだした。
 と、ここまで沈思黙考で、ぴくりとも動かずに事の次第を思いだして居ると、じいはしびれを切らしたのか、納屋に入って来たかと思うと右手をレディアの方に向けて右手のひらから光線を発射した。
 「いてっ」
 レディアは頭を掻きながら起き上った。
 「いつつ」
 「レディア様、如何に魔獣族と言えども、一般人と共存して行かねばならぬ現代においては、油断大敵ですぞ。特に我々はエリートの血縁、魔獣大将軍の裔(すえ)なのですから、修練を怠ってはなりませぬ」
 じいは堅いなとレディアは思った。普段なら、レディアが納屋で昼寝をしていると、
 「納谷悟朗が好きなのですか。仮面ライダーのヴィデオを見ましょう。彼が首領の声をやっとりますわい」
とか、一緒に納屋でヴィデオを見て居ると急に納屋の壁を手の平で叩き出して
 「納屋は英語でバーンと言いますのじゃ。バーンバーンとじいが壁を叩いとりますわ」
 とか言い出したりするしゃれの分かる人だったのだが。
「レディア様。ちまたで今流行りの超能力少女などと呼ばれていい気になってはいけませぬぞ。修練を怠るとご先祖様の栄光に泥を塗る事になりますぞ」
 レディアは既に起き上がって二本の足に戻って居たのだが、再び人魚の様に二本の足を魚の尾っぽに戻してぴちぴち、じいの右頬と左頬を張った。
 「これ、今流行りのなどと言うでない。わらわの心が傷付くではないか。メンタルダメージはそく、魔獣族の能力に響くと言うのに」
 レディアは怒って二本の足を魚の尾っぽと化したのだった。



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