第107期 #14

前夜

闇の中で金色のゼリーが蠢いている。それは分離して二体の巨大な人型になる。
二体は男女の神様らしい。そして私は自分がその夫婦神の産んだ兄弟姉妹の末子であることに気付く。
「貴方達の手で世界を作りなさい」
金色のゼリーは生命の粘土だった。私達の仕事はその粘土を材料に、この世界に居住するべきものを造形することだった。
私達は世界の片隅で生命の原型を製作した。完成した作品は世界の中心にいる父母に検査してもらう。世界に太陽はまだ無かった。暗闇を抜け、私達は精魂を傾けた完成品を携え父母に会いに行く。
「許可」と父母が言うと、その粘土細工に生命が吹きこまれた。
生命の宿った粘土は生物になる。動物ならば躍動し、植物ならば花を咲かせる。自作の生物の脈動は私達の喜びだった。
私達は様々を製作した。一体の動物を作れば、その動物が食料にする植物、その動物を食料にする別の動物と、それぞれを関連させる。物語を紡ぐように私達は世界を作り上げる。けれど不満があった。
世界の中心で待つ父母は抱き合っていた。闇の中に巨大な体躯を横たえて浮かび、互いの腕を相手の背中に廻し、固く抱擁して愛し合う。離れない。血縁同士での情交を禁止されていた私達には、それが羨ましかった。
ある時に父母が「不許可」と言った。無数に作品を製作していると次第にどれもが似たようになる。類似品は破棄される。世界が私達の作品で溢れるに従い「不許可」も増えた。その私達の努力を無に帰す言葉は私達の言葉を蝕んだ。
「父さんと母さんを引き剥がそう」
最初に生まれた兄が言い、皆が賛同した。製作の日々に喘いでいた私達の想像力は破壊に駆られた。兄弟姉妹は父母の下へ狂奔した。ただ私だけが怖気づいた。
「止めよう」
私は言った。すると兄は私の膝を蹴り砕き、姉は喉笛を噛み破った。私は昏倒した。
しばらくして覚醒した私は世界の中心へと這い進んだ。膝が動かなかった。呼吸も苦しかった。叫喚が聞こえ、見上げると兄弟姉妹が巨大な父母の体に群がっていた。兄達が父を殴りつけ、姉達は母の肌を引き裂いた。やがて苦痛に堪えかね、父母は体を離し始めた。父母の体の合わせ目から光が漏れだす。この世界で最初の光がもたらされた。父母の体に取りついていた子供達は吹き飛ばされたか燃えつきた。愛し合う父母の抱擁の間から、太陽が産まれていた。
やがて父の体が舞い上がって空になり、母の体が沈み込んで大地となった。



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