第105期 #9
夜。真っ暗闇の海の上で少年は海賊達の大声を叫び、ビールのグラスが交える音を聞いていた。
少年は10歳にしてもう"海賊の船長になる"という夢を持っていた。理由はただでさえ強い海賊の中でも一番強い海賊だからという理由だった。だから少年はいつも夜になると、ボートにのり、海賊船の近くに行き海賊の声などを聞いているのだ。
ある晩、少年はいつものようにボートに乗り、海賊船の近くに行った。そのとき
「おいボウズ、いつもそこでなにしてる?」
少年はドキッとした。後ろで海賊が話しかけてきたのだ。少年はとりあえずなにをしていたかを海賊に全部話した。すると海賊はいきなり大声で笑い出した。
「そうか、おまえ海賊目指してるのか。止めとけ止めとけ。海賊になったって良いことなんか一つもないぞ。」
海賊は嬉しく、そして寂しそうに言った。でも少年は諦めず海賊になりたいと大声で言った。海賊は少し悩んだようだが、
「そうか。ならこの船に乗れ。そして今日からおまえは海賊…じゃなくて海賊見習いだ!」
少年は驚いた。というかどんな風な反応をすればいいのか分からなかった。でもとても嬉しい事には代わりはなかった。
次の日から少年は海賊見習いとして、武器の準備や、肩もみや、掃除など一生懸命働いた。しばらくすると武器の使い方や、大砲の撃ち方、そして戦い方などを教えてもらえた。そして5年後にはもうだれが見ても立派な"海賊"になっていた。
しかしその5年間ずっと住み続けてきた船が大破した。他の海賊が食料を奪いに攻めて来たのだ。少年や船長、仲間の海賊たちも戦ったが、船は沈没し少年や船長達は、海に流されちりぢりになり、少年は意識を失った。
あれから何年が経っただろう。少年はもう一人前の男になり海賊の船長として大海原を進んでいる。子供の時からの夢が叶ったのである。しかし男の心の中はいつどんな時でもいつも海の底のように真っ暗だった。