第105期 #15

莢を燃やす

 月次勇吾は今朝8時半ごろ目覚めた。食卓にはウインナー3切れとシーチキン入りの卵焼き3切れが皿に並べてあった。勇吾のマンスリー曲は今月は「灰色の恋人たち」だ。もう歌詞からメロディーからコード進行まで覚えて仕舞った。一人口ずさみながら朝食をとる。
 新聞紙の上には昨夜収穫して豆をとった後の小豆の莢が山盛りあった。勇吾はこれを燃やさなくてはならない。庭で燃やすかこれが生えて居た休耕田の畑の畝の下で燃やすか、しばし思案した。今回は庭で燃やす事にすると決めた。決めると久我アブに電話をする。明日の手続きの打ち合わせだ。俺が運輸局へ行って手続きをして来るから君はOOへ行って関係書類を揃えて来てくれ。うん、うんOOな。OOじゃなきゃ駄目だよ。
 勇吾は社会保険労務士もやっているが、今回のは社会保険では無い。テレビでは子供たちに蔓延するテレビゲーム病についての特集番組をやって居た。ふ、俺もテレビゲームはやるがなと勇吾は思ったが子供たちの場合は批判能力の欠如と自覚症状の欠如によって他者をも巻き込む危険が大なのだと児童評論家が熱く語って居る。ふ、俺もそんな事を画面の向こうから語って見たいものだと勇吾は思った。
 勇吾は濡れ縁に降り立って庭を眺める。ふ、母方の祖母宅には最初からこのいわゆる濡れ縁なる物があった様だが、我が家に濡れ縁が出来たのは祖母が無くなって大分経ってからだった。これを設置した母の気持ちを勇吾は忖度して見る。ほぼ100パーセント日曜大工で母の主導のもとに設置された父と母の合作濡れ縁。勇吾は何かしら自分の人生の先に横たわる長い谷みたいなものを想像して気が重くなるのを禁じ得なかった。
 庭でライターで小豆の莢に火を付けた勇吾は燃え盛る炎を前に久我はちゃんと書類を揃えられるだろうかと愚にもつかない不安を口実に顔に渋面を作って見せた。
 少し不安だったので再び久我に電話をかけた。おお久我君か、分かって居るかも知れないが、君の行くべき所はSとTとUだから。決してVには行かない事。
  一仕事終えた気分で勇吾は猛烈に風呂に入りたくなった。勇吾には奇癖があってガンダムのプラモデルは必ず風呂場で無いと作れないので勇吾が風呂に入る時は必ずガンプラの箱を風呂場に持ち込むのだった。勇吾は風呂場でガンプラを作り始めた。



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