# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 鼠と猫 | 土竜 | 1000 |
2 | ちょこん | Qua Adenauer | 1000 |
3 | 青い海と血の色の宇宙(そら) | 羽尻公一郎 | 140 |
4 | 青の男 | 和泉翠 | 993 |
5 | 愛を注ぐ | ポン酢 | 605 |
6 | 虎 | わら | 1000 |
7 | 中国産ワカメ | なゆら | 913 |
8 | Masjid | しろくま | 1000 |
9 | the-one-i-love | 金武宗基 | 134 |
10 | ビーフハート | ハードロール | 998 |
11 | てるてる坊主 | 謙悟 | 999 |
12 | 客の声 | ロロ=キタカ | 933 |
13 | ヒマ人 | カルシウム | 496 |
14 | 夕方、一人で留守番してたら | とげとげシープ | 499 |
15 | 悩み | エム✝ありす | 1000 |
16 | 宇宙オーケストラがまわる、まわる、石を投げつけられる | るるるぶ☆どっぐちゃん | 1000 |
17 | 僕の鳥 | euReka | 1000 |
18 | 蜜葬 | 志保龍彦 | 993 |
19 | 『エコーエコー』 | 吉川楡井 | 1000 |
「聞いたか? また、狐が盗みに入ったって」研究所内の案内図に目を落としながら言う。
「あぁ、だが、俺に言わせりゃ、あんなのまだまだ、ひよっこだ」同じく、眉間に皺を寄せながら、案内図と格闘する相棒の鼠が言う。
「ひよっこねぇ、それじゃ、俺たちは鶏か?」
「そう、鶏冠の生えた鶏、立派だろ?」
「立派だよ。大の大人が道に迷ってるんだからな」
「うるせぇな、すでに人生の道に迷ってんだよ。だから、こんな格好して、ここにいるんだろうが」
「おぉ、うまいこと言うね」
「ほっとけ!」
準備を整え始めたのが、約二ヶ月前。研究所から開発データを盗もうと、清掃員に紛れ、侵入したのが、数十分前。そして、道に迷ったと気付いたのが、数分前。
現在、研究所内の案内図と、目下、格闘中である。
「どうかしましたか?」突然、後から声がした。
鼠も私も驚いて、声の方へと慌てて振り返る。
そこには、警備員が立っていた。
油断していたのか? 警備員の存在にまるで気付かなかった。
「あぁ、ちょうど良かった!」突然、鼠が大声をあげた。胸騒ぎがする。下手なことを喋るなよ、と心の中で祈る。
「いやぁ、実は僕ら、第二実験室に向かっていたところなんですが、こいつが道に迷っちゃいまして」俺が? お前は迷っていないのか。
「出来れば、行き方を教えて頂けませんかね?」
鼠の言葉に、警備員は意外にも、「第二実験室ですね」と、自ら道案内を申し出てきた。
背の高い細身の女性警備員だった。肌が白く、眼鼻立ちがはっきりとしている。いわゆる美人だった。
鼠と私は、彼女の案内で、ようやく目的の実験室の前へと辿り着いた。そして、予め用意しておいた偽造カードで、扉のロックを開錠する。唾を飲む。ドアが横に滑るようにして開いていく。
一瞬、眼前に広がる光景を理解できなかった。研究員たちが一ヶ所で床に這うようにしている。皆、一様に手と足を縛られ、ガムテープで口を塞がられている。
「どういうことだ?」鼠が言った、と同時に、視界から先程の警備員の姿が消えていた。すぐに、辺りを見回す。が、やはりいない。どこにもいない。
ふと、名刺のような紙が落ちていることに気が付き、手で拾い上げる。
あぁ、そういうことか―。
隣の鼠に、その紙を渡す。一文だけ記されていた。
『御馳走様 狐』
「先を越されたな。とんだひよっこだよ」
「あぁ、だけどよ」鼠が鼻の頭を掻きながら言う。「案外、美人だったよな」
ちょこん。
まさに、そうとしか表現出来なかった。彼は、ちょこん、と座っていたのだ。
そもそも、彼を呼び出したのは私なのだけれど、私は、彼に話し掛ける事が出来ないでいた。彼は普段、でん、とでも表現すべき座り方をしている、と思っていた私は、正直、本当に、彼には失礼かもしれないが、面食らっていたのである。
何せ、彼は身長六尺三寸、体重二十四貫目。欧羅巴の騎士鎧が似合いそうな、がしり、とした体躯なのだ。でも、顔は意外と可愛くて、私の好みだ。
いや、本当に、ちょこん、としか表現出来ないのだ。
体躯からして、決して、ちょこんと座る事など出来ないと思われるのに、まさに彼は、ちょこんと座っていたのだ。
しつこいようだが、到底、ちょこん、などと座れる体躯ではないのだが、ちょこんと座っていたのだ。
私は、彼の、その、ちょこん、とした座り方を、たっぷり四半刻は眺め、正直、何度も吹き出しそうにまでなり、呼び出しておいて失礼だとは思ったが、それでも予定の半刻早く来る彼の性格もあって、まだ遅刻ではない時に、話し掛ける事が出来た。
「待った?」
「いいえ。」
呼び出されたら、呼び出した相手が何処にいるか、少しは辺りを見回そうものだと思うのだが、彼は手元の文庫本から、話し掛けられても尚、こちらに眼を向けようとはしない。
彼の体躯なら、事典を持っていても違和感ないかもしれないな、などと思ったりしたが、文庫本は、彼の、ちょこん、に役立っていると思ったりした。
立ち上がると、正に彼は、壁というか、山というか、大きかった。
さっきまで、ちょこん、と座っていたとは思えない。
しかし、何度も何度も言うようだが、私は見たのだ。彼が、ちょこん、としか表現出来ない座り方をしていたのを、確かに見たのだ。本当だ。
珍しいものを見た。
さっきまで私は、そういう気持ちでいた。だってそうだろう、あの体躯の彼が、ちょこん、などと座っていたのだ。珍しいと思わないわけがない。
しかし、彼はその後、行く先々で、ちょこん、と座った。
映画館、喫茶店、そして今、私がお手洗いに行っている間、公園の縁台に座っている時でさえ、彼は、ちょこん、と座っていた。
そう、彼にとって、それこそが常態であって、偶々、奇特な座り方、ちょこん、を実践していたわけではなかったのだ。
私は、少し残念な気持ちになりながらも、彼に言った。
「待った?」
「いいえ。」
やはり彼は、ちょこん、と座ったまま、言った。
世界組織のありとあらゆる戦争行為を根絶するために極秘に
開発された巨大宇宙ステーションであったが、ヒロインは
弟を助けてくれなかった科学技術を憎み、宇宙ステーション
はヒロインの目論むとおり、ステーションは巨大な爆発を
起こした。爆発の瞬間、恋する隊員とキスをする。そこで
全てが終わった。
私のモノにしてしまいたい。不意にそう思った。
何の変哲もない晴れやかな朝だった。少し空が青すぎた、ただそれだけの日だった。
友達の電話を受けたのは深夜のことだ。彼氏に振られたらしい。彼の代名詞はろくでなしで、彼女が何故その男と付き合っているのか理解に苦しんだ。
別れて良かったとさえ思った。
しかし、彼女は大切な友達で、男は本当にどうしようもない奴だったので、それなりに腹も立った。一発、殴ってやろう。そう思ってからは早かった。
アルマーニのスーツからジャージに着替え、髪も整えぬまま、何も持たずに家を飛び出した。明日は大事な会議があった気がしたが、そんなものはくそくらえだ。脇目も振らず、高級住宅街を駆け抜けた。空はうっすらと明るくなり始めていた。
「何、やってるんだろ」
呟いたが、それも一瞬の逡巡。見栄も羞恥も仕事も捨てて走ったのだから、思考もどこかに落としてしまったのだろう。私は白く狭いアパートを目指し、ひたすらに走り続けた。金も名誉も愛も、何もない男の元へ。
いつかの飲み会の帰りに一度立ち寄っただけだったが、迷わずたどり着けた。
躊躇わずにチャイムを押した。
ピンポン―
間延びした、気の抜ける音がした。待っても待っても、誰も出てはこなかった。
ドアに貼りつくようにもたれかかる。
「帰って、きて…」
ぽつりと口から漏れた言葉に苦笑する。今日の第一声はあまりにもみじめで、それでいてどこか艶やかだった。
切れていた息はもう整っていた。絶対に、このままでは帰らない。決意を新たにする。
私の友人を傷付けた罪は重いのだ。哀れな男を蔑めば、何かが救われるような気がしていた。人気のないおんぼろアパートが軋む音と、私の呼吸の音だけが静かに響いていた。
どのくらいそうしていたかは分からないが、やがて、
「そこ、俺んちなんだけど」
男の声がした。甘いお酒の匂いと、柔らかな口調。私はソレを知っている。
「あんたを、待ってたのよ」
そう言って振り返れば、予想通りの顔があった。どうしようもなくだらしなく、どうしようもなくろくでなしで、どうしようもなく会いたかった男。可哀そうな人。
「どうして俺なんかを?」
彼が、いつものように青いシャツを羽織って笑っていた。
私のモノにしてしまいたい。不意にそう思った。
「あんたを、殴りにきたのよ」
そう言って抱きついた。
その日は、空がやけに青かった。
買い物帰りの道にて、井戸端会議中である顔見知りの奥様方を見かけたマダムは、迷うことなくその集まりに参加する。しばらく聞きに徹したところ、子供への虐待を話の種にして、盛り上がっているらしかった。
"虐待されて育った子供は、喋らず、考えない。消極的になり、物事に取り組もうとしない"そうだと、会話に参加する人が口々に言う。しかし奥様方は、いずれも話半分の態度である。そのうち話題が成熟すると、のんきな調子で声をかけあい、互いに互いを協調するのみだった。
「とんでもない。うちの子は、絶対にそうさせないわ」
さりとてマダムだけは、ちぎった肝臓を悲しみに浸す思いに捉われる。子供が愛されずに育つなど、あってはならない。報われない子供たちのためにも、自分の息子へこれまで以上に愛を注ぐことを、マダムは一段と決意する。
家に帰ると、早速、最大限の愛をもって息子をいたわった。欲しがるおもちゃは何でも与えてやったし、嫌いな食べ物は与えないでやった。
息子のために駆け回る中でも、マダムの、子供の考えを先回りする洞察力と器量には目を見張る。息子が唇に指を当ててぐずるときには、すかさずご飯を用意したし、その他もろもろだ。過保護すぎるかもしれないが、愛されないよりは、幾分も良い。
このままの調子で数年が経過した。マダムは日々に満足している。そして順調に育つ息子である、しかし、彼は物事に取り組もうとしないし、喋りもしなかった。
応永十五年。足利義満の邸宅に大勢の武士が集まっていた。武士たちに囲まれて、一人の小僧が前将軍を見上げている。
「これ一休。この屏風の虎が毎晩抜け出して暴れるので困っておる。捕らえよ」
義満は虎が描かれた屏風に手をかけ、小僧に縄を投げ渡した。武士たちが「義満さま何言ってんの」と動揺する中、一休だけが不敵な笑みを浮かべていた。
「おう、目に物見せてやろうじゃねぇか。なあ新右衛門さんよぉ!」
一休は義満を睨みつけたまま背後に声をかけた。「新右衛門って誰だ」「そんな奴いたっけ」と武士たちは困惑した。構わず一休は縁側に上がり屏風を外に引きずり出すと、その周囲に円を描き怪しい記号を加え、一歩下がって叫んだ。
「エロイムエッサイム我は求め訴えたり!」
すると円の内部で土が盛り上がり、煙と臭気を発しながらゆっくりと渦を巻き始めた。武士たちが腰を抜かす。地面がドロドロに溶け、屏風も飲み込まれていく。
「ごほごほ、何じゃ、何が起きた!」
義満が叫ぶ。煙が晴れ、屏風の代わりに男が立っていた。黒ずくめの奇妙な格好である。
「こ奴は何者じゃ!」
義満の問いに一休は平然と答えた。
「虎です」
「嘘をつけ。どう見ても人、いや、なんだ、物の怪か!」
見れば煙から出てきた男は山羊の脚を持っていた。
「いえ、虎です」
一休は言い切った。さすがの前将軍も言葉を失い、気まずい沈黙が流れる。沈黙を破ったのはその人だか虎だか山羊だかだった。
「我は悪魔。貴様の魂と引き替えにどんな願いも叶えよう」
「い、一休、虎が喋ったぞ!」
「空耳です」
「こ奴は今自分を悪魔とはっきり言ったぞ!」
『悪魔』はそもそも仏教用語である。
「いえ、空耳です」
一休は引き下がらない。
「さあ何を望む。若さも繁栄も思いのままだぞ」
自称悪魔は一休と義満を睥睨して言った。
「ならば幕府の安泰を……」
「コイツの魂をくれてやるからちょっとお前縛られろ」
一休は義満の願いを遮り、それどころか義満を指さして言った。
「よかろう」
虎はうなずいて一休に縛られた。
「どうでぇ、見たか義満さんよぉ!」
一休は縄の端を義満につき出した。義満は呆気にとられたまま縄を受け取った。
「ハハハハハ!」
高らかに笑いながら一休は去っていった。見送った後、武士たちは縁側を見上げた。そこにもう虎はおらず、前将軍が立ち尽くしていた。
ほどなく足利義満は急病で亡くなる。五十に満たない波乱の生涯であった。
「カツオお兄様、その態度、失礼ではございませんか」
と言ったワカメは中国出身の妹で、中国国籍を持つ親に育てられただけあり、日本語も非常に達者。その丁寧さが鼻につくほど。
僕は、学校終わり中嶋と一緒に野球の練習をする約束をして、一刻も早く空き地に行かなければならなくて、なぜなら空き地を占領するために早めに行く役を中嶋から仰せつかっているわけで、いかんワカメの口癖がうつってしまったじゃないか。
家に帰るや否や空き地むかって一目散、姉さんに捕まればまたお使いやら掃除やら面倒くさいことを仰せつかるわけで、いかんまたワカメ。ランドセルを投げ込んで空き地に向かおうとすると、もう家に帰っていたワカメが部屋からすすすと出てきて、
「カツオお兄様、お帰りなさい。ワカメね、お兄様に言いたいことがあるのだけれどいいかしら」
とかなんとかやけにごちゃごちゃといいやがり、僕が、
「ああ?今忙しいから後で」
と玄関から飛び出そうとするとワカメが駆け出して手を握られて、
「なにするんじゃオマエ今忙しいから後でっていっただろうが」
と怒鳴るとこれだ。
失礼も何も、いつもと同じようなこと言ってるだけなのに今日は何なのだろうって思って僕はいったん立ち止まりワカメの方を見たよ。
ワカメは目に涙を溜めて、
「お兄様ひどい」
とかなんとかつぶやいている。
下唇を噛み締めて悔しそうな表情で、僕は後味の悪さでいっぱいになる。
それで、
「どうしたんだいワカメ」
と尋ねてみると彼女は、
「ワカメ、中国人なの?日本人じゃないの?」
ときた。
これは難しい問題、あくまでも魂の問題だから、
「そういうことはお母さんの李さんに聞きなよ」
と言っておいた。
李さんは中国からナミヘイ父さんの嫁にやってきたワカメの実の母親で、だから今の僕の母親でもある。僕としては母親はフネおかあさん一人だと今でも思っているから認めたくないけれど僕はもう32歳の大人だぜ、だから本当のお母さんみたいに李さんに接している。その李さんならうまく答えてくれそうな気がした。
実際李さんはとても聡明な人で、だから本場の中国舞踊を見に行った父さんに口説かれて日本にやって来れたわけだし、いろんな場面で最善の道へ導くことのできる人だから。
女性は一日に五回礼拝をする。男性は金曜日の正午に一回、集団礼拝をする。
まじめだね
女性は身分が低いからたくさんお祈りをするの
なんで宗教があるのだろう
苦しみを取り除いたり、人を幸せにするためだと思う
彼女はそう答えた。僕には垣根にしか思えなかった。
結婚しようよ
ムスリムは同じムスリムとしか結婚ができないの
神道はどの宗教の神も認めているよ
あなたも同じ仏教徒と結婚したら?
ここの仏教徒はみな中華系だけど、中国人と日本人は違うよ
じゃあキリスト教徒と結婚したら? と彼女は云った。
彼女のJilbabを取った姿が見たいと思い、海へ行こうと云ってみた。
どこかいい場所知らない?
Pantai Cerminに行ってみる?
誰が用意したのか、いつもは街の中を走る小さな乗合バスを貸し切って、彼女と友達十人で海へ出掛けた。
バスの中はポップスが流れていた。菓子の袋を手に手に回した。みんな笑顔で会話を交わしていた。
女子は簡単に男子と腕を組んだ。相手の肩に頭を預け、手を取り、写真を撮る。そしてFacebookに投稿する。それを見た友達はコメントをする。恋人同士でもないのに、パーソナルスペースが近いことに起因するのか。彼女もまた然り。諦めにともない見るのも慣れて、感情も波打たない。
海岸に着いた。男女別れて脱衣室へ。Jilbabを取ってきた子と付けたままの子がいた。Jilbabを取ることに、それぞれ考えを持っていた。
取らなかった子は海にも入らなかった。取った子たちのいつもと違う印象に、はっとさせられた。
Jilbabを取った彼女に、今までにない親近感を覚えた。海藻のように濡れた黒い髪の毛。もう国境もないように感じた。目の前の海は一番大きな存在だった。
彼女と浜辺に座って焼きトウモロコシを食べた。生まれ変わったら一緒になれるかな、そう云うと、生まれ変われると信じているの、と彼女は僕に訊いた。
帰りにMasjidに寄った。女子たちは礼拝に、男子たちは外で煙草を吸った。僕ともう一人、Jilbabを取らなかった子がバスの中に残っていた。どうして行かないのと訊くと、月経なのとその子は答えた。
Masjidは夕陽に赤く照らされていた。建造物というより、地面から出てきたような印象も覚える。
僕は彼女がいるMasjidの中の世界を知ることができない。だから、僕たちは結婚することができない。
あのとき僕は愛しているという言葉の軽さに信じていなかったがしかしー
愛しているという言葉しか知らなかった。
内実は護るという途方もない実質でしかないので
愛する、という決意でしかないことを知っていたからで、
しかし、この事を伝えられないことに
愛しているという言葉を放った。
ルーシーは嘆く。遥か上空。具体的には高度一万メートル。個人的にはファッキング・ワークについて。糞くらえ。ため息が出てしまう。思い出すのは数週間前のハイスクール同窓会。ルーシーはあの頃と変わらぬ持ち前の美貌同様、彼女の仕事についても憧れや賞賛の声が挙がるのを期待していた。『やはり君は我々の永遠のヒロインだな』…だけど実際はどうだった?「大変でしょう?足が棒にならない?」「離着陸のとき、向かい合わせに座るでしょ?あのとき、なんて話しかけたらいいのかな?」「嫌な乗客ベスト3を教えてよ。まずは101位から!(笑)」「去年のプレイメイトオブザイヤーは、確か君と同じ航空会社の子だったっけなはは」…ヨーコは半分やっかみだから赦す。ボビーは近い将来放っておいても刑務所に入るような輩だからこの際赦す。ドノバンはそのうち殺す。とっておきの方法を思いついたら。手始めにリアムはフライト前に右翼に紐でくくりつけておいた。今ごろ凍死か窒息死している。「見て!あの右の翼!」乗客のひとり、ブランケットババアが窓の外を指さして叫んでいた。彼女は離陸前、意味もなくルーシーに「違うブランケットを持ってくるように!」命じた。それはまるで新しく買ったサイクロン式掃除機に、わざと大きなゴミを吸わせて精度を試す悪質な試運転のような行為だった。「聞こえないのかしら?そこのミス…」間近にはルーシーしかいなかった。私はマシンじゃないわ。ルーシーはキレたい気持ちを抑え、口角を上げた笑みを携え、翼が多少揺れてる(ように見える)のはなにも問題はないということを和やかに説明した。当機も、はしゃぎすぎの貴女の頭もね。そしてルーシーは持ち場に戻り「ビーフ?オアチキン?」の声明を繰り返す。「ビーーフ!」先刻、シートの倒しすぎをルーシーに窘められた男が聞かれる前から居丈高に告げた。「申し訳ありませんお客様、ビーフはもうナシングでして」「知ってるさ。後ろの連中はのきなみチキンをご所望のようだな。いったいどれだけチキンなんだよ」男はハハハと笑うと不自然に黒々しいあごひげに手を当てて「それとさ、ビーフはないのに、なぜ聞く?」そう問われてルーシーは絶句した。「俺のハートはビーフなのさ、ぶ厚いんだ」男はいうと、つけひげとサングラスを外し悪戯っぽく白い歯を見せた。「俺だよルース!、ドノバン様だよ!」「ないわ!」ルーシーは喰い気味に即答した。
「何故雨が降らなくなったのでしょう」
「さあ、何故でしょう」
殺風景な砂漠のど真ん中に、酒場が一軒。廃墟か砂塵か仙人掌しか見えない中で、ぽつんと置いてあるかのように居を据えたその酒場は、どうにも場違いな風景だった。
しかしこの店、品揃えは豊富なのである。街の酒場と比べても引けを取らない、いやむしろ勝る程に。
そういうわけで、その酒場は旅人にとって砂漠越えには欠かせない一種のオアシス代わりとなっていた。
「しかし、すごいですね。よくこんな所で様々な品物を」
「いえいえ。私も昔は巨万の富を抱えふんぞり返るような奴でしかなかったのですが。妻と息子を事故で亡くしてから、富が今では全く意味のない物だと気付きまして」
「ほう」
「せめてこの富を何か役に立つようにと色々考えたのですが。その矢先、この大干ばつが起こりましてね。急速な砂漠化に耐えかね、次々と街を去っていく人達を見て、私は思ったのです。私だけは残って、この酒場を今迄と何一つ変わらないように、いくら富を削ろうともやっていこうと。妻や息子と共に暮らしたこの店で、ずっとやっていこうと」
「成程。すみません、お気に障ることを聞いてしまって」
「いや、こんな辺鄙な地となっては寂しい思いもどうしても拭い去ることはできなくて。話を聞いてもらうだけでも幸せなのですよ」
「そうでしたか。ところで、あれは何ですかね。随分と古ぼけているようですが」
指を差した先。埃を被った、酒場の軒先に吊るされている代物。
「ああ、それは。息子の形見ですよ」
「形見?」
「ええ、実はですね。妻と息子を亡くしたその日は、妻が息子を連れて遠足に行った日なのです」
「なんと……」
「私は行きませんでした。かつての私は愛情を忘れてしまっていたのです。後悔してもしきれません。あれは、息子があの日晴れるようにと、前日にせっせと作っていたてるてる坊主なのです。いくら埃を被ってようとも、捨てるに捨てられなくて。思えばあの辺りですかね。大干ばつが起き、街の人々が離れていったのは」
「まさか。あのてるてる坊主は子供の願いをずっと……」
「はは、そうだったら面白いですね。にしても、無駄話が過ぎました。よろしければ注文を。話を聞いてくれたお礼に一杯くらいおまけしますよ」
「それはありがたい! ではお言葉に甘えて……」
子供の願いは、てるてる坊主に込められて。
ずっと、ずっと、晴れ上がった天気を導き続けている。
このスーパーでは客の声を常に掲示してより良い経営を心掛けて居た。それらの中でも特に好評を博して居たのが祈祷師の無料除霊相談だった。何か不安のある人や悩みごとのある人がこのスーパーを訪れて除霊を受けたり相談に乗って貰ったりして居た。
おかげでスーパーは大繁盛で祈祷師の方も以前はホームレス同然の乞食だったが、最近はスーパーを根城にして食いつなぐだけでは無く、スーパーの売り上げに貢献して居ると言う事で給金まで貰う様になった。
「祈祷師さん私は妻と家庭内別居状態なんですが、どうしたもんでしょう。女房は浮気とかしてないでしょうね」
「むむむむ、あなた、奥さんはあなたに隠れてカルチャースクールに通って居ますよ。でも浮気はしていません。私が保証します。しかし、むむむむ、奥さんはカルチャースクールの講師さんとラヴラヴですよ、でも浮気はしていません、して居ませんが講師さんといい感じです。そして、むむむむ、浮気はしていませんが、奥さん最近料理がうまく成りませんでしたか、あなたはその為に、女房が浮気して居ると推測なさっている。浮気を隠すために料理をうまくしてごまかして居ると。止めなさい。ゲスの勘ぐりです。ずばりあなたの奥さんは浮気をしているからそれを隠すために料理をうまくしたのではありません。ゲスの勘ぐりです。講師さんといい感じになったからその為に気を良くして料理がうまくなったのです。よござんすか、おわかりですか、あなたの奥さんは浮気をして居ません」
「そうだったのですか、有難う御座いました」
こんな感じで祈祷師のお悩み相談は概ね好評だった。その上高額な除霊グッズを売り付けたりと言う事も無く、誠実に相談者の家庭訪問をしたりして支持者を増やして行ったりした。
「祈祷師さん、私の女房が私のパソコンを使って個人事業をやっているのですが、どうしたらいいでしょうか」
「うーむ、実は私はあなたの自宅のパソコンを精査しました。その結果ずばりあなたの奥さんは潔白です。個人事業をやって居るのでは無く、被災者の家に救援物資を搬送する業務をあなたのパソコンを使ってやっていたのでした。慈善事業ですからね、恥ずかしくてあなたに言えなかったのです」
「そうだったのか、反省しました」
「あ〜暑ち〜」
夏。俺は学校の屋上で寝っ転がっていた。ニュースでは、今年の夏の気温は、平年より2〜3℃高いということだった。
今、俺は中3。受験も今年ある。だからみんな今、必死で受験勉強をしてる。この俺を除いて。なぜなら俺は、中2の時からほぼ毎日、授業も受けずサボっているからだ。
中2の時から、何で授業も受けずサボっているのか。と先生や友人から、今までで数え切れないほど言われた。まぁ言われて当然だと思うけど。そんでもって毎回必ず同じ事を言う。
″だって勉強しても良い事なんてほとんど無いじゃないですか。"
といつも必ず言う。みんなからは、睨まれたりぶつぶつと何か言われたりするけど、これは本当のことだと俺は思っている。どれだけがんばって勉強しても得することなんて受験くらいしかほとんどない。だったら勉強しないで、楽しく遊んだほうがよっぽどいいと思う。
でもこんな俺だって夢がある。叶えるためは勉強をしなけりゃいけない、と思ってはいるけど、勉強しても良い事なんて無いって思うと、そのたびやる気を失い、結局サボりに走ることになる。
そんな毎日を繰り返し、毎日をいわゆるヒマ人として今を生きている。
ケータイに着信。非通知からである。
どうせイタズラだろうとは思ったが、なかなか鳴り止まないので、仕方なくちょうど山場だったゲームをポーズして出た。
「はい」
「あたし、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの」
「……はい?」
切れた。女の声だった。
二階の自分の部屋の窓から外を窺うと、庭先に親のではないチャリが止まっていた。マジで誰かいるらしい。
たぶん同い年くらいの女子の声だったと思う。だが、別に女友達がいないわけではないものの、さすがに家まで訪ねてくるやつに心当たりはない。
一応、足音を立てないように階段を降りて、とりあえず玄関のドアにチェーンをかける。
スー、ハー。深呼吸を一つ。鍵を外し、慎重に扉を開けると────
そこには、隣町に住んでいる4つ年下の従妹が立っていた。正月に会った時より髪が伸びて、だいぶ雰囲気も大人びていた。
「どーも。メリーです」
「…………あがって麦茶でも飲んでけ」
──ちなみに、要件は
『ばあちゃんがきんぴら作りすぎちゃったから、にぃちゃんのトコにもおすそわけ〜』だった。
満面の笑みでタッパーを渡された。
さすが我が故郷。田舎である。何かに期待した俺がバカだった。
怒涛の音楽。宇宙オーケストラにも様々あるものでベテルギウスの真空。耳を澄まそう。何故だろう。バイオリン。ビオラ。ティンパニ。コントラバス。ハープ。偶然なんだろう。たった七色のリボンの束の縛られたきっと偶然なのだろう。上も下も横も隣も無い。ビートルジュース。上も下も横も、あなたの隣。
マネキンの頭に、近くからひきずってきた理髪店のくるくるを突き立ててみる。
「これで動けばとっても助かるんだけれどなあ!」
マエストロのソフトウェアはずっと進化し続けているけれど新機能も増え続けているけれどバグも増え続けているので処理速度、きちんとマネキンもくるくるも新しくしているのにXPの時のほうが絶対に軽快だったよなあ、とか思っても新機能。だいたいもはや指揮者が立ち上がるのは運なのか不運なのかというような運不運に、いやでも運不運ってってびぎびぎばぎぎぎぎ! 立ち上がった! がぎびぎぎぎ! 立ち上がった! くるくるが十二本突き立ったマネキンが、ナイチンゲールが、マエストロが、宇宙オーケストラの前に指揮棒を高く構えて立ち上がる。
良かった。なんとか助かった。息をするのも苦しいような緊張。
「みなさぁーんのー、みみのあなのなかにー、クラシックの名曲がいまー、流れ込んでいきます。拍手をたくさん、ごろうじろー」
マネキンマエストロの口上が響く。3200K、地球大気密度比、4500分の1。ひとつ、おおきく、ミミは息を吸い込む。なにしろここのストリート公演でおひねりがきちんと来ないと、マエストロや機材や宇宙船を休ませるために、ミミとシスター達がまたストリートでフェラチオをしなければならないからな。
フェラチオー、フェラチオいかがっすかー。街頭に立って、バイオリンの弓を大きく振りまくってジャンプして、客を呼び込まなければならないからな。ブラジャー、パンツ、陰毛、エレクトリックバイブレーターが夜空を舞う中で、セックスアピールをして良い条件でフェラチオをするようにしなければならなくなるからな。もうバイオリンよりもフェラチオがうまくなってしまったからな。処女なのによく解らないサービスとか展開とかでもう童貞でも無いしな。音楽とか美術とかつまりアートとかで表現したかったものよりも多くのものを、もう違うことで表現してしまっているからな。
「美術とか音楽とかアートとかブンガクとか、そういうもので表現したかったのにな!」
僕の鳥は鳴いていた。声を探して鳴いていた。
「ママお仕事に行ってくるからね。たぶん今夜は帰らないからね」
からね。
「冷蔵庫に牛乳入ってるでしょ。お腹がすいたらパンもあるし。おじさんからもらったオモチャもあるでしょ」
でも僕はね、おじさんが部屋にやってくる水曜日になると死にたくなるのでね、カレンダーから水曜日を切り取ってママの灰皿で燃やしてるんだ。
「セイラはまだ熱があるんだからね」
セイラは僕の妹で、僕の鳥と話が出来るんだ。
「じゃあ行ってくるね」
だからセイラは水曜日のおじさんからいつも何をされているのかということを、僕の鳥に話しているのだと思う。
――オレは水曜日のママの代わりに君らの面倒をみてやってるだけさ。オレは鬼じゃないんだよ。
そうかな。おじさんは水曜日、新品のエンピツをケースから取り出すと、セイラを部屋に呼んでセイラに変なことしていたじゃないか。でも僕は別の部屋でアニメのDVDを観てるようにと、水曜日のおじさんに言われたんだ。
――お兄ちゃんにはビスケットをあげよう。でもママに喋ったら、君たちを殺してオレも死ぬからな。
三月十一日の金曜日。ママが出かけてしばらくすると大きな地震がやってきて、部屋の中を目に見えない怪獣が暴れ回った。僕は熱を出して寝ていたセイラの手を引っ張ってベランダへ逃げた。
――じきに津波がくるわ。
ねえママ、僕たちは死ぬの?
――たぶん今夜、ママは帰らないから。
高いベランダから下を覗くと海がやってきて、家や車が木の葉のように流れていた。それに水曜日のおじさんも僕たちに手を振りながら流されているのが見えた。さよならを言う時間さえなかった。
あれから1ヶ月後、避難所で生活をしていた僕たちに、ママの遺体が瓦礫の中から見つかったと大人の人が教えてくれた。でも久しぶりに会ったママの顔はジグソーパズルみたいにばらばらになっていたので、セイラはそのばらばらのパズルを必死に組み直してママの顔に戻そうとするので僕はセイラの手を握って人間の顔はパズルじゃないんだよ教えた。そして二人で線香をあげてママにさよならを言って立ち去ろうとした瞬間、ママの口元がなにか言いたげに動いたかと思ったら、もうずっと忘れていた僕の鳥がママの口からむずむずと這い出してきて、広い死体置き場に春が来たかと思うくらいに大きく、ほがらかに鳴いた。
死者たちはあくびを漏らすと、言葉を探し始めた。
恋人だった長沢美智が死んだのは二日前のことである。突然のことに激しく動揺し、みっともなく取り乱したものの、私の精神状態に頓着することもなく、時間と社会は稼働を続け、親族の手によって美智の葬式が、実家である岩手の寒村で行われることになった。 本来ならば親族だけの密葬が慣習らしいのだが、特例として私も呼ばれることになり、電車を数えきれぬ程乗り換え、揺籃の如きバスに乗り続け、漸く目的の村に着くことが出来た。
冗談のように天高く聳える岩山の麓に、その村はあった。こぢんまりとしており、痩せた段々畑が多く、過疎化が深刻な問題となっていそうな、まさしく寒村という表現がピタリとくる村である。私は徒歩で彼女の家に向かいながら、自分に向けられる好奇と疑心の込められた視線に辟易せずにはいられなかった。ヨソ者が余程珍しいらしい。
村民の暗い眼から逃れるように彼女の実家に飛び込むと、時間が迫っていたらしく、すぐに葬式は始まった。涙を流す暇もなく、あっと言う間にそれが終わると、村の若者と思われる青年たちが、いきなり美智の棺桶を担ぎ上げた。そのまま、棺桶は家の外へ運び出され、それに親族達も続いた。坊主が先頭となり、この一団は山へ山へと進んでいった。訳が分からないまま私は後に続いた。
三十分程歩いていると、山腹の辺りで行列は停止した。眼前には古いお堂があり、観音開きの戸が音もなく開くと、中には二つの大甕がドンと置かれていた。棺桶がお堂の中に運ばれ安置されると、やにわに青年たちが甕の中のモノをそれに注ぎ始めた。私が驚愕に硬直している間にも、甘い芳香を放つ琥珀色の液体は、眠るように死んでいる美智の身体を濡らし、覆っていった。棺桶の縁まで液体が満たされると、蓋が閉められ、釘が打ち付けられた。そして、それはお堂のさらに奥の戸から洞窟らしき穴蔵へと移動させられたのだった。
私は彼らの後にフラフラとついていった。どれくらい歩いたものか、気がつくと、私は広大な空間に出ていた。そこで私は見たのだ。自然が造り出した巨大伽藍の中に整然と並べられた、千体近い黄金の仏像達を。だが、眼を凝らして見れば、それが造形的に仏像でないことがすぐに分かった。それは人間だった。黄金色の琥珀に塗り固められた屍体だった。私は理解した。美智の棺桶に注がれていた物の正体を。あれは樹液だったのである。
彼女は蜜葬に付されたのだ。
外ではエレキ車がパイプラインを通っているけど、誰も動力のことには興味がない。街の中心に立つ天候制御の塔からは、四六時中、放熱スモッグが焚かれているけど、誰もその熱が都市の枢軸気温を毎年0.001℃ずつ狂わしていることを知らない。私も知らない。もしかするとスタディボードに時々書き込まれる“嘘”なのかもしれない。管理局の統制がスタディボードを見張っているけど、目をかいくぐって何処かの誰かが書き込むの。ありもしない噂話に、作り話……。けど、大人たちは知ってる。“嘘”もジツヨウセイがあれば、生活の一部になるってこと。
三丁目にあった古道具屋が消えて、向かい側の映画館もなくなった。古道具屋のおじいさんに聞いたら、ゴラクのキボが縮小されているらしくて、どうして、と聞くと、おじいさんは笑っただけで返事をしなかった。売れ残りの中からほら貝を受け取って、私は帰宅した。おかあさんはいい物をもらったわね、と知った風な口ぶりだけど、何に使うのかきっと知らない。
管理局の空色調整課で働くおとうさんが夜になって帰って来ると、明日には東の空の星星が五インチ四方分消えることになると言っていた。どうして、と訊ねても、おっとシュヒ義務シュヒ義務と言葉を濁す。夕飯が終わった後は、明日分の宿題をスクールボウドに書き込んだ。クラスの子から答え教えてとメールが来て、宿題のファイルを公開してしまいそうになったけど、シュヒ義務だからと断った。ボード上から友だちの姿が消えるのを見計らい、ベッドの下に隠しておいたほら貝を取り出して、そっと息を吹き込む。貝の表面はオイルを塗りたくったようにきらきらしているけど、実際は砂をまぶしたようにざらざらで、その触り心地は決していいものではない。
「……それでね、聞こえますか」
ほら貝に囁けば私の声が反響してくる。何度か繰り返していくと、それは渦を巻くように歪みはじめて、星星の見える窓辺に気を逸らしながら、かすかな電子音が聞こえてくるのを待つ。
ほら貝をくれたとき、おじいさんが言っていた。
これはね、宇宙のハテと交信できるんだよ。
ハテ?
そうだね……H、A、TEだね。
「教えてください」
ほら貝の奥、コーヒーに砂鉄を溶いたような闇の向こうに、螺旋状の銀河が緩やかに廻る。
「どうしてこの世界はこんなに幸せなのですか」
ほら貝は答えてくれる。
宇宙の片隅に、不幸せな星星があるからだって。