第104期 #2

ちょこん

ちょこん。

まさに、そうとしか表現出来なかった。彼は、ちょこん、と座っていたのだ。

そもそも、彼を呼び出したのは私なのだけれど、私は、彼に話し掛ける事が出来ないでいた。彼は普段、でん、とでも表現すべき座り方をしている、と思っていた私は、正直、本当に、彼には失礼かもしれないが、面食らっていたのである。

何せ、彼は身長六尺三寸、体重二十四貫目。欧羅巴の騎士鎧が似合いそうな、がしり、とした体躯なのだ。でも、顔は意外と可愛くて、私の好みだ。

いや、本当に、ちょこん、としか表現出来ないのだ。
体躯からして、決して、ちょこんと座る事など出来ないと思われるのに、まさに彼は、ちょこんと座っていたのだ。

しつこいようだが、到底、ちょこん、などと座れる体躯ではないのだが、ちょこんと座っていたのだ。


私は、彼の、その、ちょこん、とした座り方を、たっぷり四半刻は眺め、正直、何度も吹き出しそうにまでなり、呼び出しておいて失礼だとは思ったが、それでも予定の半刻早く来る彼の性格もあって、まだ遅刻ではない時に、話し掛ける事が出来た。
「待った?」

「いいえ。」
呼び出されたら、呼び出した相手が何処にいるか、少しは辺りを見回そうものだと思うのだが、彼は手元の文庫本から、話し掛けられても尚、こちらに眼を向けようとはしない。
彼の体躯なら、事典を持っていても違和感ないかもしれないな、などと思ったりしたが、文庫本は、彼の、ちょこん、に役立っていると思ったりした。


立ち上がると、正に彼は、壁というか、山というか、大きかった。
さっきまで、ちょこん、と座っていたとは思えない。

しかし、何度も何度も言うようだが、私は見たのだ。彼が、ちょこん、としか表現出来ない座り方をしていたのを、確かに見たのだ。本当だ。


珍しいものを見た。
さっきまで私は、そういう気持ちでいた。だってそうだろう、あの体躯の彼が、ちょこん、などと座っていたのだ。珍しいと思わないわけがない。

しかし、彼はその後、行く先々で、ちょこん、と座った。
映画館、喫茶店、そして今、私がお手洗いに行っている間、公園の縁台に座っている時でさえ、彼は、ちょこん、と座っていた。

そう、彼にとって、それこそが常態であって、偶々、奇特な座り方、ちょこん、を実践していたわけではなかったのだ。

私は、少し残念な気持ちになりながらも、彼に言った。
「待った?」

「いいえ。」
やはり彼は、ちょこん、と座ったまま、言った。



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