第102期 #5
バスが行ってしまったので、私達は歩く事にした。
荷物もそんなに多くなかったし歩いていけない距離でもなかった。
手提げの黒い鞄は何かの雑誌についていたオマケだったはずだ。
少し肌寒くて、喉が渇いていたのもあって二人とも珍しく黙って歩いた。
楽しい雰囲気でもないが、かといって何かが悲しい訳でもなかった。
ただ歩いていると考える事が山ほどあった。
近所のスーパーが潰れてしまった事、両親が離婚した事、子供が大学生になった事、冷蔵庫の砂肝の事。
ありとあらゆる、どうでも良いようでどうでも良くない出来事。
けれど今は、この両足を前に前に動かして、立ち止まりさえしなければいいのだ。
そうすれば、いつかは目的地について、買い物ができて、明日がくるだろう。
「ねぇ、何考えてるの? 」
「ん?今夜の夕食の事かな……」
「そうかぁ、私もだよ」
彼女は彼女で何か問題を抱えているのかもしれなかったが、私達はそのまま、さらにどうでもいい話に興じていくのだった。