第101期 #9

例えば呼吸をするように

「世の中はすべてキリンと象に分けることが出来る」
「すべては無理ですよ」
「いやそれがね、可能なんですよ、僕はキリンでしょ、大槻くんもキリンかな」
「ちょっと待ってください、なにを根拠に?」
「え、分かるやろ、簡単やん」
「全く分かりません」
「中西啓三は象、市川海老蔵も象」
「ええと、百歩譲ってその人たちが象なら、僕がキリンである理由はますますわかりません」
「きききりんは、」
「あ、もういいです分かりました」
「象」
「うーんやっぱり分かりません」
「いや、シンプルに、鼻が長い人は象、首が長い人はキリン」
「まったくピンときませんが、僕はキリン?」
「いや、キリンでしょう、その首の長さは」
「いたって普通ですけど」
「普通?(疑わしそうな目)」
「普通でしょう、いままで首長いって言われたことないし」
「えっ?でも(両手50センチほど広げて首と見比べながら)だいたいこんだけあるよね?」
「ありませんよ」
「いやいやご謙遜を。ほら太さもなかなか(両手で首周りの太さを表現して、探るように太くしていく、やがて両手いっぱいの円を作って)ここ、ここや!」
「そんなたくましくないですよ」
「いやいや、あかんわ、さらに広がっていく!(手を広げて)まだ成長してる!もうひとりでは表現しきれん!大槻君!助けて!」
「首周りはそう簡単に成長したりしませんよ南さん」
「とりあえず大槻君の首まわりの右側担当して!頼んだ大槻君」
「こうですか(ふたりで作る大きな円)」
「大槻君の首は見上げた太さやね、お見事やわ」
「ありがとうございます(会釈する)」
「うわ!動いた!(会釈に合わせて動く)」
「いやどうなっとるんですかこれ?」
「ほな、明日朝4時にサバンナに集合やから、おつかれっす」(ネクタイを緩めて乾杯のジェッシャー)
「ええと、ちょっとまだ打上げ始めないで下さい。突然なんのことですか、サバンナ?」
「首担当なんやから、大槻君が起きる前に集合してサバンナで待機しとかな」
「ええと、よくわからないんですが、僕集合する時点でおきてますよね?」
「仮にはね」
「仮ですか」
「仮に起きて集合するわけ」
「首の右側を担当する為に?」
「そう、そして、大槻くん起きる」
「仮でなく?」
「そう。そしてサバンナを全力で駆ける」
「そんな習慣ありませんけど」
「駆けて疲れたら、川で水浴びする」
「え?キリン?」
「キリン」
「いやだから僕キリンちゃいますよ」
「だって大槻君の首こんなもんやのに?」



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