第101期 #8
哲也はふと思い立って、写真アルバムを整理した。
勉強から逃げるために他ならなかった。年末の大掃除も終えてしまったし、ゲームや本も最近買ったものは全てクリア、読破してしまっていたので、彼ができることはそれぐらいだった。いや、もしかすると、過去を想起することで今の色褪せた生活を忘れようと思ったのかも知れない。
とにかく、哲也は写真整理を始めた。日付やジャンルはばらばらに写真を入れていたので、整理はそう早くは終わらなかった。
しばらくして、哲也はいつの間にか、その写真を鑑賞するようになった。幼少時の写真、小学校の自然教室、卒業式―
あの頃もこの頃も、将来に理想の自分を重ね合わせて、興奮していたのを思い出した。そうして、写真に写っている、小さな自分と自らを対比すると、哲也は何だかもの悲しくなって、それ以上その作業を続ける気にはなれなくなった。哲也は整理を断念し、順番など気にせずに写真を戻した。
そして、過去と言う名の幻影に執着しないで済むように…
かつて理想だった自分になれるように…
哲也は勉強を始めた。時間のかかる作業だった。
だが、大掃除も、ゲームも本も、全て終えている彼にとって、できるのはそれくらいだった。
過去にも、未来にも、今の自分を重ね合わせることはできない。時は残酷なほどに流れていく。
理想的な過去や未来を胸の内に抱いているほど、人は、それを思い知らされるのだろう。