第101期 #6
「危ないので反対側から降りてください。」
彼は優しく、しかし事務的にこちらに声をかける。目は、バックミラー越しにこちらを見ている。
私はその目がすき。バックミラーの中の、眼鏡の奥のあなたの優しい目が好き。
一仕事終えると、またあなたに会う。だからホテルにいる間に少しでも身なりを整える。ただしこの時間私は私ではない。この時間しか会えないのに。
「お疲れ様です」
エロを極めた客に揉みくちゃにされ、それでも沢山お金を払っていただいた。複雑な風俗嬢の心に優しい声が、またバックミラー越しに言う。疲れなんて吹っ飛ぶよ、その目で見られたら。
ほんとに笑っちゃうよね。私あなたが好きなんですよ。こんな仕事、してるけど。
伝えようがない。私なんかが好きだって絶対嬉しくない。
バックミラー越しじゃ、涙までは見えないんだろうな。