第101期 #2

BRIGHT

 僕の豆電球が光らなかった時の事を今でも、まだ覚えている。
 理科の実験キットが配られて、最初に組み立てた時の事だ。
 説明書通りに作ったのに、それは全く動かなかった。
 コイルやモータの他に豆電球がついていて、並列や直列にして電気の流れる仕組みを見るのが目的らしい。
 教室はいつもより騒がしくて、みんなが遊んでいるみたいに思えた。
 僕は真剣で、慎重で、けれど不器用だったので、なかなかできなかった。
 やっと組立てが終わった所で、先生は分解して違う実験をするように指示をだした。
 僕はちっとも楽しくなかった。
 僕の豆電球は、まだ光らずにいて、少しだけ待って欲しいと思った。
 そして、次の実験も僕は失敗した。
 仕組みは理解しているつもりなんだけど、電気がちゃんと通っていないんだと思う。
 僕は悪くないのに、この電池が悪い気がする。
「なんで光らないの?」
 呟いたけど、誰も聞いていなかった。
 一番最初にキットが配られた時、誰かが僕の電池を入れ替えたんじゃないだろうか。
 根拠のない悪意すら感じていた。
 僕は先生の指示を無視して、もう一度豆電球を光らせようと組み立てなおした。
 すると隣の席から高岡君の声が聞こえた。
「おい、今はその実験じゃないよ」
「分ってるよ、ちょっと待って」
「駄目だよ、言う通りにしないと怒られるよ」
「でも、まだ電気が通ってないから、プロペラは回らないよ」
「その実験はもういいから」
 回らないと分かっていて実験するのは嫌だった。
 光れ、光れよ豆電球。
 けれど、豆電球は光らない。
 そのうちチャイムが鳴って、授業が終わった。
 みんなは、さっさとキットを片づけて体育の準備を始めた。
 僕がキットを乱暴に分解して、組み立て直すのをみんなが見ていた。
「あいつのだけは光らないんだ。何故なら……」
 そんな風に聞こえた。
 すごく悲しくて、訳も分らずに泣きたくなった。
 その時、傍で見ていた本郷君が言った。
「僕のクリップと代えてみて」
「うん」
 言われるままに代えてみると、すぐに豆電球がついた。
「そのクリップ、不良品みたいだね」
「そうかも」
「先生に言ってきたら?」
「ありがとう」
 ただ豆電球が光っただけなのに、嬉しくて泣きそうになった。
 何かに取り残されて、世界がどんどん前に進んでいくのは、すごく怖い事で、同じような経験をした時に僕はいつも胸を締めつけられる。
 そして、あの豆電球の事を思い出している。



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