第101期 #3
床に滴り落ちていく様を、この手首にいつも期待しながら、俺は何もできずに自分に話しかけながら、布団にくるむ。どうしても決断することができないでいる。
「ああ、やはり早めるのは止そう。」
「なんで。この衝動の原因がなんだったか、もう今じゃ分からないけどさ、私は自分の決意は尊重したい。」
4年前のちょうど今頃の9月に、私は15年後に自殺しようと決意した。それは、自殺することによる私自身の苦しみと、自殺せずに今のまま生きることによる私自身の苦しみを比べてみた結果で、どちらのほうが辛いのかは即答できた。このまま生きるほうが私にとっては苦痛。だから、私は自殺を延長することにした。
私は、佑司が嫌いだから。
「今日はきつかった。定期的っていうか、きまってあるんだよな、この感じ。いつもは抑えられるけど、今日は無理だよ。こんなの。メールまで送っちゃったよ。」
帰りの電車で、「無理だ。」と思った俺は、ひそかに想いを寄せていた人に告白のメールを送っていた。
「なんていうか、ほんとに合わないよね。ほんと、不適合者だよ。」
「俺みたいのがいるから、楽しめてるヤツがいるんだよ。」
「こんな70年はきっと誇れるって。」
俺は4年前から自分自身を他人と見ている。いや、ほんとはその前からだろうが、あえて、自分を赤の他人として、話し相手に仕立てている。不適合者とは、うまく自分のことを回せていない人のことをいっている。
「だいたいの未来はみえる。どうせ30歳になってもあなたは殺せない。このままわけの分からない衝動に振り回されながら、70年ぐらいはいきていくだろう。」
「それでいて、俺はこれほど深く考えられる人はいないと思っている。常に自分が中心でしかいない。」
「それでも、最も殺したいのは川瀬佑司、自分自身であり、他人でもある。」
「自分自身という感覚よりも、他人の衣を被って、なんでも知りえる位置から客観視しようとしている。自分を殺そうとしている俺は、ただそこにある事実を事実としてしか受け取らず、そこに考えを持とうとはしない。意見をぶつけられれば、可能な範囲で論理付け、何とか反論しようとし、確実に予定の時間がきたら殺せるよう構えている。」
「自殺について考えてるのが自分を捨てた私で、自分であり続けている佑司は、ただ意味不明な衝動に駆られるだけ。」
「だから、ほんとに殺したくなった。」