第101期 #18
滝音プロの声は静かだがかなりきびしい。
「ゴルフをやめたいのかい?」
振り返った栄太の顔に驚きがはしった。
ゴルフを続けたい。ゴルフをやりたいから! 勝ちたいのに……
「いま、ゴルフをやめようとしている。プレーの邪魔をすることは退場する人間のやることだよ」
屋福さんにも、小雪さんにも聞かれているはずだ。栄太のプライドがしおれる。
「す、すみません」
あわてて一歩引き返した。いつか、幼馴染のサユリには意地を張って振り返らなかったが、今はそんな状況ではない。あらためて、初めてのゴルフ場の風景が鮮やかだ。
「そうだ、わかったかい? ……自分じゃない。ゴルフが王様さ、ゴルフはすべて与えてくれる。王様だからだよ」
栄太は大きくうなずいた。
そして、
屋福さんのショットラインから、もう一歩はなれるように、滝音プロのそばに立った。
ゴルフがオオサマ? うまいこというや……と、屋福さん、つぶやく。
小雪さんが、涼しげに微笑む。
<屋福さんは、ゴルフをさせるオオサマね、と、考えたのだ。>
小雪さんのゴルフは、あとをついてくる散歩の犬みたいなのだ、ふだんの暮らしの中で、……お出かけする。そんな、おまけ、……それが楽しい。だけ、
散歩を続けるとか、かわいい犬が後を付いてくる。そんなことに、真剣になる人はいない。
なんの気負いもなく、軽やかに、小雪さんのナイスショット。
それを見る栄太、何か気付いたのか?
……ひとつ忘れたのだ。人間の頭を殴ることを…… 封印したといってもいい。ゴルフボールの空に消えていくような軌跡は、その快感の身代わりになっているのだ。タツヤの裏切りを許したわけではなく。代わりにナイスショットを続けることにしたのだ。
栄太の強張りがとけて、しなやかに筋肉がその力を再び発揮する。
前半最後のミドルホールである。綺麗にツーオンして、長いパットを1メートルまでよせた。そこで、ふたたび、緊張した。
1メートルのパットである。練習場でもはずすことがある。しかし、練習ならまず入る長さだ。
緊張して待つのは辛かった。
そして、空を仰いで、泣いた。涙を飲み込んで、パットを決めた。
さぁ〜っと、空気が揺れた。ただ、幸運だと思った。
「なんだぁ、ブルってるなぁ、どっちにしても君にプレゼントはあげるつもりだったんだよ」
ふっと、調子いいなと、栄太は感じた。
……あれ、この人もタツヤと同じかな、と考えた。