第101期 #16
たまらないばあちゃんは人気者だ。何でそんな綽名かと言うと、何か感じると必ず、〜がたまらないと表現するからだ。
例えば孫がかわいくてたまらないとか、何か食べてうまいとうまくてたまらないとか、悲しい事があると悲しくてたまらないと言うし、やばいと不安でたまらないと言うし、うまくいかないと悔しくてたまらないと言うのだ。残念でたまらないともよく言うばあちゃんだった。
しかしそんなたまらないばあちゃんも、お金だけはしっかりためていた。と言うかこのお婆ちゃん、さる大企業でいまだに現役で働く名誉人事部長だったのだ。
たまらないばあちゃん、就職の面接官を久しぶりに務める事になった。
「あなたの名前は?」
「葉月裕です」
「え?もう一回。言っとくけどなっちゃんじゃないからね。そこ笑いをこらえない、あなたも面接官でしょ。年取ると耳が遠くてね、はづきゆうさん?」
「いえ、はつきゆうです」
「あらそう、はつきゆうさんですか。あらはっきゅうとも読めるわね、薄給さん?8級さん?8球さん?」
「私帰ります」
「私帰りますって、あんた演歌じゃないんだから、せっかく受けといてそれはないんじゃない?」
「私、今日(2011年2月5日)指令を受けてから1週間目にして男子トイレを掃除しました。ジフとパイプ掃除用の強力な黄色い液を使って白い泡を立てて、今日はしっかり水に流してデッキブラシでごしごしと。そして割れた茶色い酒瓶の破片を茶色い柄の何時もよりは少し長めのホウキで掃いてちりとりへ入れてと」
「あなたところで見た目からも名前からも性別が分かりづらいんだけど、ずばりマンかウーマンか言うてみい」
「ずばりマンアンドウーマンです」
「おもしろけりゃいいってもんじゃない」
「でも上記の功績は」
「馬鹿もんが、そちがでかい音を執拗にたてたので、私が指令を受けたのです。その為に仕事が遅れました。その程度の事やって当然。やったうちに入りませんよ」
「そうですか」
「そうですよ」
「しょうがありません。やはり帰るしか・・・」
「まあ待て。弊社に入りたいのは何故じゃ。応募の動機は?」
「私は見て仕舞ったんです。貴殿が、カゴを2列に並べて寝て居る所と、カートを2列に並べて寝て居る所を。」
「私の事を貴殿と言った?言った?首じゃ首、いや落選じゃ」
「そうですか」
そう言うと葉月裕は面接室を出て行った