第100期 #4

山羊たちの沈黙

みなさんはもう見ましたか!山羊がとんでもない断崖絶壁をいとも簡単に登っていく姿を。ロッククライマーさながら、脚に岩を握る力もないくせに、ほんの少しの出っ張りを見つけてそこに脚を乗せ、上体のバランスを取りながら体重移動をする、それを繰り返し瞬く間に10mほど登っている!軟弱な日本人には到底真似できない芸当。まずこの映像を見てもらいます。

(山羊が崖を登る映像/ユーチューブ等で確認ください)

さあ、いかがでしたでしょうか。上映中に会場中から悲鳴が幾度となく上がりました。それほどの衝撃。まさに山羊は我々の想像をはるかに上回る運動能力を持っています。あの純朴そうな目は、我々を欺いて、裏でほくそ笑んでいる。私はここに山羊の危険性を指摘したい。今のうちに手を打たねば、我々の生きるすべはない、と断言します。驚くなかれ、山羊の大いなる野望とは、月への進出です。私は独自の調査で山羊のある会合の様子を隠し撮りした映像を手に入れました。ご覧ください。

(山羊が会議室で話し合う映像(翻訳:戸田奈津子)/ユーチューブ等で確認ください)

山羊の声を日本語に吹き替えておいたので、非常にわかりやすかったと思います。ご覧いただいた通り、ある山羊が「月に行って基地を作りそこを拠点とし、全宇宙に対して宣戦布告する」と話していたし、別の山羊は「いや、月に行って基地を作ったら、まず地球を侵略しましょう、まずは地球だ」と話していた。さらに別の山羊は「月に行ったら基地を作り、人造山羊を作り、それを地球や宇宙へ派遣する」と話していた。共通することはいずれも月に行って基地を作る、ということであり、そこから恐ろしい侵略がはじまる。だからこそ、まだ計画段階にある今、山羊にこちらから総攻撃をかけて絶滅させる。それが地球、いや全宇宙の平和を守る最善の策なのです。先の映像のとおり、山羊がその気になればなんでもできる。核兵器など噛み砕いてしまう。おそらく月にも容易くいってしまう。あんなにも急な崖を簡単に登れるのだから、月へも登っていけるはずだ。世界には富士山よりも高い山があるでしょう?それは天まで続いているでしょう?きっと月を経由している。一刻も早く、山羊への総攻撃をはじめるべきです。人間同士がいがみ合っている場合ですか。みなが手を取り、山羊を襲うのです。

(半年後、山羊絶滅。山羊にノーベル平和賞授与。上の主張をしたある羊は行方不明)



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