第100期 #23

カベさんの事

 うちの会社には、真壁さん。通称、カベさんって人がいるんだけど、この人がまぁ、良く働く。
 いや、所謂、ワーカーホリックとは違ってね。何て言うの? とにかく、会社にいる。

 もっと具体的に? う〜ん。常に会社にいるレベル? 俺より遅く来る事も、俺より早く来る事も、記憶に無い。
 以前、仕事先の都合で朝一で来た時もいた。後、休日出勤した時もいたな。

 まぁ、仕事が好きみたいでね。社長が独立した時に、一緒に前の会社から引っ張ってきたんだけど、その当時、カベさんが派閥か何かのごたごたで干されてて、見かねた社長が声をかけたらしい。
 殺し文句は、「カベ、俺と一緒に来るなら、死ぬまで仕事持ってきてやる。来るか?」だそうで。カベさん、前の会社から、今と変わらなかったみたい。
 勿論、カベさん、二つ返事で受けたそう。死ぬまで仕事する気、満々。

 え? そんなに働いてて、倒れないのかって? いや、実はそのカベさん。一度、倒れて入院した事あるんだよ。これは、後に事件として語られるんだけどさ。
 親父さんが急死してね。さすがに、カベさんも忌引きを取って実家に帰りました。でも、最低限の引継ぎや指図は、きっちり済ませてましたよ。
 で、葬式も無事済ませた後、こっちに戻ってくるなり、ばたん。なんと、胃潰瘍で入院!

 その時は、親父さんが亡くなって、葬式だなんだと心労が重なって倒れたんだなと思った。たぶん、一人残して、みんなそう。
 で、何人か代表で見舞いに行った連中の一人が、「カベさん、今にも死にそうだったよ。あんな、カベさん見たの初めてだわ」って言ってたから、ちょっと、心配になってね。で、次の日、何人かで見舞いに行った訳だけど、これがまた変な話でさ。

 病室行ったら、社長がいるの。で、何かの書類見ながら、カベさんと仕事の話しててね。「退院したら、この仕事をやって貰うからな」とか、言ってる訳。
 正直、入院中にそれは無いだろと思った。んで、カベさんの顔見たら、すっごく生き生き。それは、後で思い出すと笑っちゃうほど。
 病院から帰る途中、社長曰く、「カベの野郎、葬式で実家帰ってる間、仕事できなかったからって、胃に穴開けやがった。相変わらず、しょうがねぇ奴だよ」
 これが、後に言う「カベさん、仕事に穴開けずに胃に穴開ける」事件の顛末。

 ちなみに、カベさんは退院後も元気に、会社に入り浸ってる。もしかして、会社に住んでるんじゃ?



Copyright © 2011 神崎 隼 / 編集: 短編