第100期 #22

どっちにしてもあげるつもりだったよ

最後に笑うのが勝者だ。あいだの道はいかにあろうとも最後に笑える勝負をしよう。滝音プロはそんな思いを込めて「最後で決めればいい」と、いった。

あとワンホール。栄太はゴルフに集中できない。思い出す、トラブルの始めはグリーン奥に打ち込んでトリプルボギー。グリーンエッジまで打ち戻してツーパットパット。……もし、手前に落としてスリーオンだったとしてピンそばに寄せればワンパットのパーだった。

 その次の3ホールめは順調だった。……なのに、わずかな返しパット、ほんとにわずか5、60センチ片手幅をはずしてそこでボギー。真ん中の5番ホールでは打ち下ろしパー3のショートホール見事に乗せておきながら、ロングパットをびびってチョロ。そのあと、2パット決めたのに……。あのロングを当たり前に……打っていたら。
 
 さっきの8番ホールはフェアウエイのいいポジションから手前の芝をざっくり掘り返してしまった。それでも次のグリーンそばから、よせが、しっかり打てたなら、ワンパットでパーが取れたのに。……よせワンねらい。ってのはそういうこ、言うんだよよなぁ……。

「気楽に打っていいわよ。まだ、午後もあるんだから」と、小雪さん。

あと半日このゴルフがつづくのか。そう考えても、やはり、この9番ホールに集中できない。

「本当に初めてのゴルフなの?」 冗談めかして笑いながら屋福さんが、「トリプルとダボがあったけど、あとは全部ボギーじゃないか。上出来だよ。たいしたものだ。滝音プロの眼は確かだね」と、言った。

「そうですね。ミスがあってスコア悪くなってますが、失敗つづきで、このスコアなら有望です。だから、今日の栄太君のゴルフならプロテストだって受かりますよ。失敗して冒険。自滅というゴルフじゃぁ、ないですからね」と、滝音プロが栄太のことをほめたのか? なぐさめたのか? 

プロテスト? ゴルフをもっとやるのか? もっと、もっと、……集中できない。栄太だった。


まるで夢の中で自分を外から見ているように、ティーショットを打った。まるで自分の背中を見ているような、ぼんやりした意識で、あるき、セカンドを打った。前にだれもいなかったから、背中を見ていたのはほかの三人だろう。
「ど、どうしたの? 私たちより先に打つなんて?」小雪さんが驚いた。
「いいよ。ささっと打とう」と、屋福さんがいった。
「おい、栄太君、ちょっと待ちなさい」滝音プロが栄太に声をかけた。



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