第100期 #21

恋の魔法

 トランポリンとランポリントは双子ではありません。この世に一秒違いで生まれた赤の担任でした。
 赤は副担任のランポリント先生のことを愛していましたが、それに嫉妬した正担任のトランポリン先生は最近学校を休みがちです。
「肺!」
 教室の後ろノセキの女が元気に手を挙げました。
「トランポリン先生はきっと恋をなさっているんです。だってアタシもノセキに恋してるから、先生のお気持ちよく分かるの」
 副担任のランポリント先生は、誰も座っていない正担任席を眺めました。
「肺!」
 今度はノセキが手を挙げました。
「みんなでお見舞いに行くってのはどうかな。例えば……誰かが先生にメールを送る。『先生にプレゼントがあります。部屋の窓を開けて下さい』。先生はアパートの二階の窓を開ける。何も無い。誰かのイタズラか? 先生は首をひねりながら一旦窓を閉める。しばらくすると何やら音楽が聞こえてくる。ロッキーのテーマだ。『♪チャチャーチャ〜、チャチャーチャ〜、こいーの〜、いたーみ〜、かなわーぬおーもいー、あきびーんにつーめうみーになが〜しーた〜。♪いつーか〜、キミーの〜、ゆめーの〜、きしーべ〜、たどりーついーたらー、恋のー魔法をといーてくだ〜さーい〜』。先生が再び窓を開けると、5年夏組のみんなが路上で大合唱。通報を受けたお巡りさんが警棒を振り回して制止するが、5年夏組のみんなは怯むことなく声を張り上げる。『♪せーかいーにひーとーつだーけーノセーキ、ほーんとーは赤、のーこーとあーいしーてる、そーのきーもーちーつたーえーられーなーくーてえ、はーちじーかんーそらーながめーていーまーす〜。♪ナーンバ』」
「肺!」
 ノセキの女は歌を遮るように手を挙げました。
「もうやめて。それからノセキ最悪」
 すると教室の隅でうづくまっていた赤が、力を振り絞るように手を挙げました。
「ハイ」
 みんなの視線が、恋にやつれた赤に突き刺さります。
「わたし、ランポリント先生を殺してから死にます!」
 そう宣言すると赤はスカートをまくり上げ、太ももに忍ばせておいたナイフで先生を一気に刺しました。
「ノセキ、お前も死ねよ」
 ノセキの女は胸元から拳銃を取り出すと、間髪置かずノセキの頭を撃ち抜きました。
「地球が逆回転するくらい、君を愛してるよ……」
「起立!」
 三時間目の終了を告げるチャイムが鳴っています。
 トランポリン先生は廊下で一人、声も立てずに泣いていました。



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